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【挑む人】第50回 井手上漠「理解しなくていい「そうなんだ」ってただ認めてほしい」

世の中は少しずつ良くなっている 変化はゆっくりでいい

──今のジェンダーを取り巻く環境をどう感じますか。

以前よりも良くなってはいますし、良くしていかなければならないと思っています。私は高校1年生の時に生物学的には女性だけれど心が男性の方から「スカートをはきたくない」という相談を受けて、制服改革を実現したことがあります。今は制服を見直す学校も増えていますし、ジェンダー平等を進めようとしているところも増えています。

こういうことは焦らずゆっくりでいいと思うんです。少しずつ変わってきていることは当事者である私も感じていて、すごくうれしいことだなと思っています。

──そのような変化についていけず、戸惑っている大人世代の人も多いように思います。

当事者ではない人から「どう声をかければいいか」「どんな気持ちで受け入れればいいか悩む」という相談をよく受けます。私はいつも「ただ否定しなければいい」と答えます。無理に理解しようとしないで、ただ認めてあげるだけでいいんです、と。

それどころか「理解」は危ういです。どん底に落ち込んでいる時に他人から「理解しているよ」などと言われても「分からないくせに」となってしまう場合もあると思うのです。悩みを打ち明けてきた人が来た時に受け入れてあげる、認めてあげるという心があればいいと思います。

──あまり身構えないでいいということですね。

否定しなければ何でもいいと思うので、例えば、カミングアウトされた時にも、軽く「そうなんだ」と流す。そんなフラットな感じがいいんじゃないでしょうか。たぶん多くの当事者もそれを願っていると思います。

──40代、50代の大人世代に伝えたいことはありますか。

自分の子どもがジェンダーの悩みを持っていたとしたら、認めてあげたいと思う半面、子どもの幸せを考えるからこそ普通の道を歩んでほしいと思いますよね。今はその気持ちも分かります。私が上京する時に母がくれた手紙にも「自分の育て方が間違っていたんじゃないかと悩んだことがある」と書かれていました。でも、母は「この子が笑っているならそれでいい」と気づいてから悩みがなくなったそうです。私はそれを読んですごくうれしかった。だから、親として、家族として普通になってほしいと思っても、本人が幸せだと思う気持ちを優先して支えてあげてほしいと思います。

──来年20歳になったらやってみたいことはありますか。

いろんなことを経験させてもらっているので忘れてしまいがちですが、私はまだ10代なんですよね(笑)。コロナが落ち着いていたら海外に行きたいです。海外留学して帰ってきた人たちって、無意識のうちに何かが変わるような体験をしているからか、価値観や考え方が人とは違っていて、とても輝いて見えるので……。私の10代後半は多くのことを制限されてきたので、日本の外には何があるのか見て、感じて、たくさんの刺激を受けたいです。

井手上漠氏
〈取材後記〉
「かわいすぎるジュノンボーイ」としてメディアに登場し、今ではタレント、モデル、アパレルブランドのプロデューサーと活躍の幅を広げつつある井手上氏。ここまでにはたくさんの葛藤があったはずですが、「性別はないです」と言えるようになり、どんなときも自分らしさを見失わない強さを手に入れたようです。井手上氏の小学生の頃にはすでにLGBTQ+という言葉が存在していたと聞き、ジェネレーションギャップを感じましたが、それだけジェンダー意識が変わってきたということ。井手上氏たち若い世代なら、より良い社会を築いていくことでしょう。
特集 井手上漠/了
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