芸術とビジネスを両輪で回していく
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原料の櫨と「
「初めは芸術作品をつくる感覚でしたね。クラフトイベントなどには出展していましたが、あくまでアートとして蠟燭をつくりたいと思っていました。金銭的には大変でしたが、生涯をかけて取り組んでいきたいと思えるものに出合えた喜びが大きかったので、つらいとは全く感じませんでした」
しかし、徐々に「商売と両立してこそのアートである」という思いが強くなっていった。
「自分自身は、蠟燭の灯には何ものにも代えがたい価値があると感じています。しかし、それを認知してくれる人がゼロなら価値もゼロです。つくっているものの質がどれだけ確かでも、それを多くの人に知ってもらい、買ってもらわなければ続かない。そう考えるようになりました」
現在は、コーヒーやドライフルーツなどと共に蠟燭を毎月届ける定期便のメニューを用意し、ユーザーの裾野を広げることに注力している。卸での販売も拡大し、店舗を訪れる人も増えているという。この数年で確かな手応えが感じられるようになった。そう櫨氏は話す。
櫨という名字は本名ではない。4年ほど前、和蠟燭と共に生涯生きていくという決意を込めて名前を変えた。「和蠟燭は生活の必需品ではありません。しかし、この文化は絶対に残していかなければならないと思っています」と櫨氏は言う。
蠟燭づくりは決して楽な仕事ではない。しかし、やめようと思ったことはこれまで一度もなかった。もちろん、これからも。
「蠟燭も人の人生も儚いものです。しかし、それは決してネガティブなことではありません。限りある命だからこそ、より良く生きたいと願う。それが人間なのだと思います。日々を前向きに生きるために、蠟燭に火を灯す時間を大切にしてほしい。そんな思いをこれからも多くの人たちに伝えていきたいですね」
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古く味わい深い店舗が立ち並ぶ川越市役所近くの商店街に店舗兼工房を構えているHAZE。以前は花屋だったという木造のその店舗でインタビューと撮影をさせていただきました。取材で最も強く感じたのは、櫨さんのまっすぐなお人柄でした。「生涯蠟燭と生きていくと決めている」と静かに、しかし一切の迷いなく語るその姿には、ものづくりに人生をかけた方の凛々しさが溢れていました。これからも素敵な和蠟燭をつくり続けていただきたいと思います。











