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【挑む人】第22回 名和高司「資本主義から「志本主義」へ──新しい企業の姿を問う」

CSV、ESG投資、SDGs──。この10年ほどの間に企業活動と社会、人権、地球環境などを結びつける考え方が広まってきた。2014年という比較的早い段階にCSVフォーラムを立ち上げ、SDGsと企業の関係に関する啓発活動も続けてきたのが、一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏だ。営利組織である民間企業が社会にコミットする意義、その方法、そしてこのコロナ禍を企業が乗り切るための視点について名和氏に伺った。

※本記事は2020年9月に掲載されたものです

競争戦略の大家はなぜ社会価値に注目したのか

名和高司(なわ・たかし)プロフィール

1957年生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱商事に入社。90年、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA(経営学修士)を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。企業の成長戦略づくりや経営変革支援に取り組む。2010年から一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。現在は一橋ビジネススクールの客員教授を務める。

※黒字= 名和高司 氏

──『CSV経営戦略』をお書きになったのは2015年でした。CSV(Creating Shared Value)とは、「社会共通の価値をつくり出すことが、企業に経済的利益をもたらす」といった考え方ですね。この考え方に出合ったきっかけを教えていただけますか。

CSVという言葉の生みの親であるマイケル・ポーター教授は、私がハーバード・ビジネス・スクールに留学している頃から経営学の重鎮でした。競争戦略の専門家で、競合を蹴落とすための理論を説いていた彼が「社会共通の価値」ということを言い出したのが2011年のことです。これは経営の世界に大変な衝撃を与えました。私も衝撃を受けた1人です。いわば儲け一辺倒の理論家だった彼が、なぜCSVということを言い出したのか。そこに強い興味を持ったのが最初でした。

──なぜ、ポーター教授は社会価値に着目したのでしょうか。

2012年に彼が来日した時、焼き鳥店でお酒を飲みながら直接聞きました。「競争がすべてと言ってきたあなたが社会価値などと言うのはどう考えてもおかしい」と。彼は、ニヤッと笑って言いましたね。「分かっとらんな、高司。それが一番儲かるねん」──。もちろん、関西弁で言ったわけではありませんが(笑)。

つまり、こういうことです。世界には様々な社会問題に直面して困っている人たちがたくさんいる。ということは、そこに需要があるということです。需要があるなら、それに対して価値を供給する仕組みさえつくれば、ビジネスは成立します。もちろんそのためには、テクノロジー、ビジネスモデル、マーケティングのイノベーションが必要です。そのイノベーションに成功すれば、必ず儲かる。それが彼の見立てだったわけです。「なんだ、やっぱり儲け主義か」と思いましたね(笑)。

もちろん企業ですから、儲けを求めるのは当然のことです。ポーター教授はリーマンショック後、「資本主義は限界を迎えている」という多くの主張に対し、資本主義の正しい道を改めて示さなければならないと考えました。そこから生まれたのが、資本主義の力をもって社会の課題を解決するというCSVだったのです。

競争戦略の大家はなぜ社会価値に注目したのか

──一方、「ESG投資」という考え方もこの10年ほどの間によく知られるようになっています。

環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に力を入れている企業に投資すべきであるという考え方ですよね。これは、一種のリスク対応のコンセプトです。環境をないがしろにし、社会とのつながりを軽んじ、コンプライアンスを徹底していない企業はビジネスに失敗する可能性が高いので、投資のリスクがあるということです。これはあくまで投資家の視点なので、経営者が「ESG経営」と言うのはちょっと違うかな、というのが私の立場です。

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