| TOP | 潮流を知る | なぜ今、サステナビリティ経営が必要なのか | 第1回 | 2ページ目 |

【第1回】明治時代からすでにあったサステナビリティ経営

「論語=道徳」「算盤=経済」を一致させることが大切な勤め

せっかく日本という国の形ができたのに、この有り様はいったいなんなのだと、栄一は自責と後悔の念にさいなまれます。その様子は、大河ドラマでもはっきりと描かれました。

では、どうあるべきなのか。栄一が『論語と算盤』に残したのは、「正しい道理で得た富でなければ、その富は完全に永続することができない」という言葉でした。

さらに「合理的の経営」という項目には、次のように記されています。

「仮に一個人のみ大富豪になっても、社会の多数がために貧困に陥るような事業であったならば、どんなものであろうか。如何にその人が富を積んでも、その幸福は継続されないではないか」

今の言葉でいえば、1%が大富豪になっても、99%が取り残された世の中では幸福は継続されないというわけです。栄一ははっきりと「富の永続」と「幸福の継続」という言葉を使っています。そして、この2つを実現するために、「論語=道徳」そして「算盤=経済」を一致させることが大切な務めであるとしたのです。

「道徳」というのは社会理念であり、“公益”の追求を尊重する儒学、こと『論語』の思想に通じるものです。一方の「経済」はビジネスであり、“個人の利益”を追い求める経済活動です。算盤を使えなければ商売は成り立たず、そこには持続可能性がありません。しかし、算盤を弾くことに集中するだけであれば、どこかでつまずいてしまうかもしれません。

一方、『論語』を読むことだけを重要視して、お金儲けなんて卑しいことには関心ありませんという考えもまた、世の中が著しく変化する中では持続可能性が乏しいとしかいえません。道徳と経済のどちらかが欠けても合理的経営は成立しない。それが、栄一の唱えた「道徳経済合一説」であり、これを両立することが重要であるという考え方です。

銀行の設立はサステナビリティの一環

1873(明治6)年、栄一は日本初の銀行となる第一国立銀行を発足させています。明治維新からわずか6年、近代的な産業もまだまだ発達していない時期です。そんな時期に銀行をつくろうと考えた背景には、パリ万博の随行員としてフランスで見聞きした金融の大切さに気づかされたこともあったでしょう。しかし、それに加えて、彼が武家出身ではなく、商人の生まれだったことも大きく影響しているはずです。

お金があることで様々なものを仕入れることができ、支払うこともできる。お金というものが、日常生活のみならず事業をまわしていくという事実を、子どものころから体感していたのだと思います。だからこそ、日本の産業を発展させるには、まず最初にお金まわりの土台を整備しなくてはならないと考えたのです。

銀行に集まったお金を循環させてこそ、企業の発展を後押しでき、「富の永続」と「幸福の継続」をめざすことができます。銀行の設立にも、栄一によるこうした循環の発想が込められていたのでしょう。

栄一は1909(明治42)年のアメリカ視察の折、石油王ロックフェラー1世と会っています。鉄鋼王カーネギーとは直接会う機会はありませんでしたが、工場を見学しています。彼らのような巨万の富を築いた人たちが、慈善事業にも積極的であったことは、栄一も注目したことでしょう。富を築くには、自分たちの努力や能力だけではなく、社会が持続しているからこそ可能なのだということを栄一は再認識したはずです。

日本にも、近江商人の活動理念として知られる「三方よし」という言葉が江戸時代からあります。売り手と買い手がともに満足して、さらに社会に貢献できるのがよい商売という発想は、洋の東西を問わず人類普遍の考え方といってよいかもしれません。

ところが、しばしば自分たちだけが儲かればよいという成金的な考え方が顔を出し、社会の持続可能性を損う結果をもたらします。大正時代の初期、栄一はそうした流れをひしひしと感じて、『論子と算盤』に記されたような言葉を残したのだと思うのです。

次回は、『論語と算盤』から日本が再びイノベーション大国になるために必要なことを紐解いていきます。

  前のページへ 1   2 一覧へ戻る  

「潮流を知る -Opinion-」カテゴリの他のコンテンツも見る

「潮流を知る -Opinion-」
カテゴリの他のコンテンツも見る

  •  プロワイズコレクション -Prowise collection-
  • なぜ今、サステナビリティ経営が必要なのか
  • ニューノーマルの世界を生きる知恵
※本ページの内容は、取材または原稿制作当時のものです。
スマートフォンからもご覧いただけます
プロワイズウェブの歴史

是非フォローを
お願いいたします!

プロワイズ事務局 Twitterアカウントへのご案内 プロワイズ事務局 Instagramアカウントへのご案内