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会社でOSSを出したら海外で登壇することになった件(Open Source Summit North America 2023 登壇レポート)

会社でOSSを出したら海外で登壇することになった件(Open Source Summit North America 2023
                                            登壇レポート)

毎々お世話になっております、株式会社 日立ソリューションズの明石です。

先日、というかもはや昨年になってしまった2023年5月10日から12日の3日間で開催されたLinux Foundation主催のイベント、「Open Source Summit North America 2023」で共同発表者として登壇してきました。本記事はその登壇レポートになります。

本当は帰国後すぐにこの記事を書くつもりでいたのですが、別案件が炎上したりほかの仕事も振られたりで時間がまったく取れず、年が明けてようやく筆が取れた次第です。 そういったワケで当時の記憶もかなり薄れてきてはいるのですが、残してある資料を元にできる限り当時を思い出しながら書いてみようと思います。 イベント自体の概要や雰囲気については別記事で紹介してありますので、ご興味のある方はそちらもご覧ください。

経緯

事の発端は、自分が以前別の記事で紹介、もとい告知をしたOSSになります。 こちら、公開というゴールに至るまで単純な開発以外にも実は社内で色んな活動をしていたのですが、その活動を二人三脚で手伝ってくださった上司から、公開までの目途が立った辺りでこのイベントの話と「活動内容がOSPOConで募集してるトピックに近そうだから試しにCFP出してみない?」と提案されました。 この提案に乗ってみたところ、なんとCFPが採択されてしまい、急いで体裁を整えて登壇してきたというのが大まかな経緯です。 正直なところ、登壇することになるとはまったく思っていなかったため、連絡が来たときは非常に驚きつつすぐに「どうしよう...」と焦りが大きくなっていったのを今でも覚えています。

※CFP...Call For Proposal。Open Source Summitでどのような発表をするかの提案。採択されるとイベントで登壇者として発表することができる。

※OSPO...Open Source Program Office。詳しくは別記事「オープンソースプログラムオフィス(OSPO)とは? 」を参照。

発表内容

要約すると「会社でOSSを出すまで何をやってきたか」になります。

発端となった件のOSSは私個人、つまり従業員が就業中に開発した自作ソフトウェアです。ただし組織としてこういったものを公開する場合、経緯はどうあれ組織のルールに則っているかを確認し、色々合議を取ったうえで公開する必要があります。 組織として公開する以上は、公開したことによって何かネガティブな事象が発生したとき、個人に留まらず組織全体へ影響を及ぼす可能性があるからです。

組織が企業である場合、一般的にプレスリリースや当ブログで掲載する記事のようなものの公開であれば、通常業務の範疇として前例がありそれに対応した具体的なルールや基準が存在することがほとんどです。 基本的にはそのルールを淡々とクリアしていけばよいのですが、今回のように「従業員が就業中、勝手に作ったソフトウェア」を公開した前例が社内で存在せず、公開するためのルールも当然ないので何をどうクリアすればいいのか分からない部分が多くありました。

したがって「従業員が就業中、勝手に作ったソフトウェア」をOSSとして公開する前に、OSSとして公開するためにクリアすべきルールや基準、例えば「OSSとして公開するソフトウェアはどのような基準を満たしていれば品質基準を満たすか?」、「どこに許可を取ればいいか?」や「どういう書類を残しておけばいいか?」といった内容についてですが、社内で多数の方々にご協力、アドバイスいただきつつ明らかにしていき、完ぺきではないにしろ最低限と思える部分は追加で調査、書類の作成や合議を取っていく、というプロセスが存在しました。

内容はこのプロセスを含めてソフトウェアの開発から公開に至るまで一連の流れをまとめ、ケーススタディとして知見を共有するという趣になっています。

登壇の模様

我々の発表は3日目に行われました。前日までにほかの発表を色々見て回っていたのですが、聴講してくれた方の人数はそこそこいたように記憶しています。 中身は4部構成でイントロ、開発者の活動をまとめた「Developer Side」、マネージャーの活動をまとめた「Manager Side」、総括となっており、 本番はイントロダクションと「Manager Side」、まとめを上司が担当し、「Developer Side」を自分が担当する形で発表しました。 終了後の質疑応答では質問、意見も頂けて小規模ながらもオフラインらしいコミュニケーションの伴う時間になったと思います。

実際の登壇の様子はこちらです(筆者は左)。

アーカイブのリンク
後から自分を見返すと「あ”あ”あ”あ”あ”」ってなりません?

感想

そもそもまともな海外渡航経験がなかったため、パスポート準備から始まり渡航して帰国、社内で出張報告を行うなどイベント自体に関係ない部分も含めてあらゆる体験がとにかく新鮮で刺激的でした。 当時を思い起こすと、終始フワフワしていた感じになっていた気がするのはどうしても否めません。

会場の写真
会場の中からも開放的な景色が臨める。これはズルい。

イベント全体について

Open Source Summit自体も初参加だったのですが、会場の雰囲気全体が非常にフレンドリーというか、自分がこれまで参加してきたイベント、カンファレンスと大きく異なるような印象を受けました。 特に参加者側の主体性が大きく違うというか、おのおのがいい意味でやりたいようにやっている気がしたのを今でも覚えています。もしかしたらイベントがオープンソースコミュニティ主体だからこそ醸成された空気感なのかもしれません。

イベント中は多様なセッションがあり、自由に聴講、参加することができます。自分は一応仕事ということでSPDXに関連のあるセッションを中心に聴講したのですが、当時自分が考えていた事の答え合わせや方向性の確認ができたので実務的にも実りのある時間でした。

移動する筆者
気になるセッション会場へ移動する筆者

セッション以外にも会場では求人/求職ボードがあったり、イベント専用SNSを使って現地と遠隔地での会議をセッティングするサービスが提供されるなど、"繋がる"ことを目的とした仕掛けが多く用意されていました。日本で言えば人脈づくり、現地ではNetworkingですが、新しい繋がりを作り待ちを広げることの重要性は年を経る度に強く感じています。 今回はこういった仕掛けをうまく使うことができなかったので、次の機会ではもっと活用できるようになっていたいものです。

また、日程としてはOpen Source Summit開催の前日になるのですが、同会場にてLF関連プロジェクトのMini Summitがいくつか開催されていました。 自分は仕事にも直結している「SPDX 3.0 Tooling Mini Summit」と「OpenChain Project Mini Summit」にも参加したのですが、ここでは実際にコミュニティ内で議論を目の当たりにすることになりました。 この点についてはほかのOSSコミュニティの集まりでも同じだと思うのですが、こういった場では実際に実装されたコードやドキュメント化されたOSSの機能説明ではなく「こういう方向性だといいよね~」みたいなメンテナー、コントリビューター同士の共通認識や今後の方向性といった、ネット上に共有すべき情報として記録される前の"何か"に触れることができました。 参加するといっても実際はほとんど聞き専でしかなかったのですが、内容はもちろんのこと活発な議論が交わされる光景には非常に刺激と感銘を受けました。

こうした議論が交わされる場に参加することのメリット、良さを生で感じられたのが、今回イベントに現地参加することで得た経験の中で一番大きな収穫だったと思います。

Mini Summitの様子
行った人には理解るオフラインイベントの良さ

登壇について

とにかく緊張、緊張、そして後悔でした。

過去に登壇するという経験自体はしていたのですが、今回はそれと比べると規模があまりにも違いすぎたうえに、英語での登壇なのでラダーを何段もすっ飛ばして登ったような感覚です。 "すっ飛ばした"ということは、本来ならその間に得られたであろう過程を経ていないということにほかなりません。 本番中目に見えて分かりやすいことから細かい部分に至るまで、さまざまな失敗を感じました。 当時の自分としては可能な限り準備をして臨んだものの、まったく足りていなかったと今でも後悔してしまいます。

しかしながら結局のところ、どんなことでも自分で経験しないことには実感が伴わないので、大なり小なりこの"失敗"はどこかで通る道なのだろうとも思うわけです。 今では自分に何が不足しているのか早めに確認できたからラッキーぐらいに思って、日頃から研鑽し続けるしかないのだと考えるようにしています。

ただ1点、英語で会話するスキルについては、それなりにできないとこのような場での機会損失が本当に大きいです。 OSS界隈におけるコミュニケーションはどうしても英語主体になりますが、前述のように議論に参加することも含めて考えるとこちらがコミュニティ側に合わせる必要があります。 見たり聞いたりすることももちろん大事なのですが、聞いて話すことに比重をおいて普段からトレーニングしておくことの重要性を痛感しました。

自分の写真
緊張しながらも必死に話す筆者

反面、登壇する事で得られたフィードバックは本当に得難いものになりました。 普段の国内、オンライン上でいただくそれを軽視する訳ではありませんが、海外の方々から直接となると普段は得る機会が少ない分非常に参考になります。

一つ例に挙げると、我々の発表内容には「今回OSSにするだけでこんなに時間かかるのは長すぎる。もっと短く効率よくできたはずだ」みたいなニュアンスが含まれていたのに対して、 会場にいたある方から「ウチも同じぐらいかかるから長すぎるってことはない、そんなもんだよ。」という反応がありました。この方も我々と同じように時間がかかりすぎることは問題だと考えており、ほかにも色んな意見をいただきました。 個人的には海外だと企業からのOSSって開発以外の時間はかなり短期間で出てくるように考えていたのですが、実はどこも水面下で色々な過程を経たうえでリリースしているのかもしれません。 (本当にどうにかならないのものでしょうかね...)

会場の写真
聴講してくださった方々

こうした反応を実際に表情やジェスチャーを交えて受け取ると、文字のみの場合と比べ印象がかなり変わります。 情報というのは文字にした時点である程度切り捨てられていること、元々ヒトは五感を使って情報を得るようにできていることを改めて強く認識しました。 このような経験を経てしまうと、オンラインでのやり取りはスピーディーで好ましいと思いつつも、すべてをオンライン上で代替するのはまだまだ難しい気もしてしまいます。

また、登壇終了後に片付けをしている最中にも話しかけて下さった方がいらっしゃって、会話内容もさることながらそんな状況が発生する事に感銘を受けました。 こうした件も含め、イベントに登壇者として参加すると得られる経験値やその質が変わってくることを実感した時間でした。最初は非常に不安でしたが、登壇して本当に良かったと思います。

最後に一点、日本との時差が妙にかみあったせいでもあるのですが、スケジュールが調整しきれなかったせいでカナダにいる間日中はイベント参加、夜間はほぼ毎晩日本側のチームメンバーと打ち合わせという状況になってしまい登壇準備に時間が取れず、非常に後悔しました。 こうなってしまうと1つの仕事に集中するには限界があり、こなすようになってしまいます。普段からこういう状況には陥らないよう気を付けたいものです。

少なくとも、次があったら絶対に仕事を残したまま海外にいかないことを固く心に誓いました。

ホテル
あまり休めなかったホテル(施設自体は非常に良かっただけに残念...)

最後に

かなり時間が経過した後ではありますがレポート記事を書いてみました。当時を思い出すと苦労と後悔ばかりが浮かんでしまいますが、それに見合うどころかお釣りが来るような得難い経験が得られました。 これを糧に、今後も技術者として研鑽していけたらと思います。 また、今回は共同発表者としての参加だったので将来一度は自分の名前だけでCFP通せたらいいな...とも考えています。 どれだけ先になるか、そもそもネタが作れるのかも現時点では分からないのですけれど。

ホテル

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