製造業の方々とよく話題になる
「DXを推進するうえでの課題」シリーズ 第1回
日立ソリューションズには、DXに関するご相談を、製造業のお客さまから数多くいただいています。これまでにお聞きした主な課題を、全4回のシリーズとしてお届けします。
第1回から第4回までの内容は、以下のとおりです。今回は、第1回です。
今後のコラム予定
- 第1回 「DXに取り組まれている製造業の皆さまから、よくお聞きすること」
「DX推進体制はトップダウンか、ボトムアップか」 - 第2回 「DX活動費はどの部署が負担するか」
- 第3回 「DX活動の成果をどのように表すか」
- 第4回 「品質向上とコミュニケーション」
中田 稔昇 Nakata Toshinori
産業イノベーション事業部 エンジニアリングチェーン本部
技師
1992年に日立ソリューションズ(旧 日立ソフトウェアエンジニアリング)へ入社し、組立加工系製造業を中心に設計情報管理からMESまで幅広く対応。CAD/PDM開発を土台に、BOM管理・工程設計管理・原価管理・PLM/ECMなどの構築を推進。とくに自動車部品メーカーの原価企画プロジェクトなど、上流の構想・要件定義から構築リードまで多数の実績を有する。
Part.1 DXに取り組まれている製造業の皆さまから、よくお聞きすること
DXに取り組まれている製造業のお客さまから、よくお聞きするお声をいくつかご紹介します。
①経営層の視点
経営層からは、「DXによって製造の“改革”を実現したいものの、実際には従来の現場“改善”活動の延長にとどまってしまっている」といった声が挙がっています。
一方で部門長からは、「外部からデジタル知見を持つ人材を迎え入れてDXを推進しようとしても、現場が受け入れられず、どのように進めてよいのかわからない」といった課題が指摘されています。
さらに、「これまで社内の情報部門と製造部門の組織的距離が大きく、DXチームを両部門の混成で構成しても、十分なコミュニケーションが取れない」という声もあり、部門間の連携不足がDX推進の壁となっている現状が見受けられます。
②製造現場の視点
製造現場側からは、「DXに割く人材を確保する余裕はない」、「これまでいろいろ改善をしてきた、デジタルと言っても今まで以上に改善を見込めるか懐疑的」など、多くの課題をお聞きします。
③ITベンダーに対する視点
一方、我々ベンダーがお客さまよりご指摘いただく事は、「ベンダーに製造データを解析してもらったが、新たな気づきはなくデータ解析費が無駄になった」、「製造データの取得をベンダーから依頼されるものの、『何の目的で、どのように活用するデータなのか』がベンダー側でも明確になっていないのではないかと感じる」、「製造に関するデータの意味を、ベンダーに一から説明するのが大変だ」といった、さまざまなご意見を頂戴しています。
日立ソリューションズでは、お客さまからお聞きしたさまざまなご意見を踏まえ、具体的な課題を掘り下げるために、お客さまとの対話を愚直に積み重ねています。AI をはじめとする最新のデジタルテクノロジーをどのように活用すれば、課題解決につながる成果を創出できるのか──その答えをお客さまとともに模索し、知恵を絞りながら取り組んでまいります。
次の項では、DXを推進するうえで直面する課題をどのような体制で乗り越えていくべきかについて、事例を知りたいというご意見をいただいております。その中でも特に関心の高い「DX推進体制はトップダウンか、ボトムアップか」について、以下に整理して記載します。
Part.2 DX推進体制はトップダウンか、ボトムアップか
DXを進めるにあたり、どのような社内体制で取り組めば成果につながるのか――。正直なところ、「やってみないとわからない」というのが現状だとおっしゃるお客さまが多いと感じています。 お客さまとの対話の中では、DXを進める際にトップダウンで取り組むべきか、ボトムアップで進めるべきかが、よく話題として挙がります。
経営側としては「現場を尊重し、ボトムアップでDXを進めている」という認識であるものの、検討状況の報告を受けると、取り組みが従来の改善活動の延長にとどまり、経営が期待する“改革”のイメージと乖離している――そのようなケースが見受けられます。
自動車関連の経営者の方々からは、次のような声をよくお聞きします。
「自動車産業はいま“100年に一度の変革期”にある。だからこそDX改革チームには、従来の改善活動ではなく、急激な需要変動への迅速な対応、新しい製造手法の早期ライン実装、品質不良へのグローバルな対処など、より“変化に強い仕組み”の検討を期待している。しかし現状では、その期待に十分応えられていない。 そのため、本来はトップダウンで強力に進めたいものの、現場主導の文化が根強く、トップダウンだけでは現場がついてこないことが想定される。参考になる事例があればぜひ知りたい。」
一方で、ボトムアップで進めようとしても、現場には次のような課題があります。
現場はこれまで絶え間なく改善活動を重ねてきており、「これ以上デジタルで何かをやれ」と言われても、対応が難しいという声が多く聞かれます。また、DX活動に投じた費用が成果につながらなかった場合、そのコストを一つの工場や現場単位で負担するのは現実的ではありません。さらに、仮に成果が出たとしても、その活動原価の全額を製品原価に反映させることは難しいため、どうしても取り組みが小規模になり、従来の改善活動の域を超えられない――といったご意見も伺っています。
このようなご意見を踏まえ、次にトップダウンでDX活動を推進した事例をご紹介します。
DXを推進するためには、デジタルに精通した人材だけでなく、製造、設計、生産技術、調達、研究開発、情報システム、そしてベンダーなど、多部門の人材が不可欠です。これらの人材を事業所単位や部門ごとに揃えることは極めて難しく、全社的な視点で人材とリソースを集める必要があります。
日立グループの事例では、経営層をトップとした全社横断のDX推進チームを組織し、トップダウンでDX活動を進めています。
この全社組織が取り組んだ活動内容は、成果の有無にかかわらず全社に広く公開されており、各現場は公開された情報の中から自部門に活用できそうな取り組みを参照することができます。また、活動を担当したDX推進チームとの情報交換を通じて、自部門におけるデジタル活用の可否や方向性を判断する際の参考にすることができます。
図1 DX活動の推進体制(トップダウン)
全社組織のDX推進チームで活動を進める際には、現場部門が全社側の人材を受け入れたがらないという課題がしばしば生じます。
これに対し日立グループでは、全社DX推進チームが現場部門と“同じ場所で机を並べ”、一つのチームとして活動を開始します。まずは「なぜDXに取り組むのか」「活動の目標は何か」について、現場部門と丁寧に対話を重ね、相互理解を深めることから取り組みをスタートしています。
全社のDX活動の目標として設定しているのが、製造業で広く用いられる指標である CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル) の改善です。 CCCとは、仕入れた部材や製造した製品が“現金として回収されるまでの期間”を指し、部品・仕掛品・製品といった在庫をいかに減らし、滞留している“モノ”をより早く“キャッシュ”に変えられるかを追求する指標です。この全社目標を踏まえ、現場レベルの活動目標として設定したのが “リードタイムの短縮” です。
リードタイムを短縮できれば、現場に滞留する部品や仕掛品、製品の在庫を減らすことにつながるためです。 そのため、ライン全体の中で「どの工程を改善すれば製品リードタイムの短縮につながるのか」「現場の改善に適したデジタル技術は何か」について、チームで議論し、具体的な課題とその対処方法を検討しています。
また、現場のモチベーションを高めながら推進するため、ひとつのテーマに取り組む期間を数カ月程度に区切り、早期に成果が見える取り組みから優先して着手しています。 トップダウンでDX活動を進めるうえで重要な取り組みのひとつが、全社で共有して利用するデータ解析用のシステム基盤(共通データ基盤)の整備です。共通データ基盤を全社で利用することで、社内のあらゆる部門が“現在、工場の現場で何が起きているのか”をデータに基づいて把握しながら業務を遂行できるようになります。
図2 全社共通データ基盤
部門ごとに求められるデータの鮮度や粒度は異なるものの、全社が同じデータを基点として部門間の調整を行うことで、業務の効率化や経営判断の迅速化につながると考えられます。これまでは、各部署が現場から個別にデータを収集し、関連部署と電話・メール・打ち合わせなど、多くの工数をかけて調整しながら業務を遂行してきたケースが一般的でした。 DXは、現場の“匠の技”をデジタルで高度化する取り組みも含まれますが、同時に、こうした全社の業務プロセスを効率化する視点も非常に重要であると感じています。
ボトムアップでDXに取り組んでいるお客さまの事例では、全社DX部門に支援を要望しても、自工場が活動対象に含まれず、自部門主導で取り組まざるを得ない状況にあるとお聞きしました。
このお客さまは、製造や検査に関するデータをすでに多く取得・蓄積されており、当社へのご相談内容は「ユーザーへ納品した製品が稼働開始後、数カ月以内に発生する初期の稼働不調を、出荷前の検査段階で事前に検出できないか」というものでした。このお客さまには、製品稼働後にサービスマンを現場へ派遣して部品交換を行う際のコストを抑えたいという目的がありました。
そこで、工場側で取得している完成品検査データと、納入後の製品が出力する稼働ログを解析したところ、特定のパターンを示す検査データのときに、稼働開始後の不調が発生しやすい傾向が見えてきました。
データ解析では、多種多様な手法の中から、ケースに適した解析アプローチを選定する必要があります。 一度、有効性の高い解析手法が特定できた後は、以降の解析についてお客さま自身で実施いただけるよう、その手法を丁寧に伝授しました。 さらに、その手法は他製品を担当する別部門にも横展開され、組織全体で活用が進みました。
製品固有の課題に対する取り組みは、ボトムアップで推進しても十分に成果をあげることができます。さらに、そこで確立したデータ解析手法を現場へ広く展開することは、全社的なDX活動の活性化に寄与すると考えています。
ベンダーの立場として、新たな不良のデータパターンを見いだすためにどのような解析手法を適用すべきかは、単独で判断できるものではありません。お客さまとともに課題に向き合い、試行錯誤を繰り返しながら進めていくことが重要だと考えています。
また、本事例では、工程情報や製造時の実績データがすでに蓄積されていたことが、成果につながった要因の一つと言えます。
ここまで、トップダウン、ボトムアップそれぞれの事例をご紹介しましたが、トップダウンとボトムアップのどちらが優れているかという話ではなく、組織に無理のない方法で、たとえ半歩ずつでも前進し続けているお客さまこそが、DX活動で確かな成果をあげていると感じています。
日立ソリューションズは、長年にわたり自動車完成車メーカーなどの大規模から、さまざまな業種の中規模製造業まで、幅広いお客さまと直接お付き合いしながら生産管理システムの構築に取り組んでまいりました。 その中で、データの核となるのが BOM(部品表) です。お客さまそれぞれの事情に応じて最適なBOMシステムを構築してきた豊富な実績があるからこそ、DXに不可欠となる BOP(工程設計情報) についても、お客さまのDX推進体制に合わせた形でご提案できると自負しております。
今後も、お客さまと対話を重ねながら、DXによって実現したい目標に向けて、ともに歩み、確かな成果につながる支援を続けていきたいと考えています。
シリーズ第2回では、「DX活動費はどの部署が負担するか」をテーマに、DX活動における費用の予算化に関するさまざまな事例をご紹介します。

