顧客ロイヤリティと新マーケティング戦略|顧客ロイヤリティ管理が成長戦略の鍵となる|鍋野 敬一郎


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第1回 顧客ロイヤリティ管理が成長戦略の鍵となる

顧客データベース構築と顧客の効果評価(レイティング)が成功の鍵

 顧客ロイヤリティという考え方は、CS(顧客満足度)から派生した考え方で、1990年頃に米国で生まれました。お客様との関係性を強化することで、商品の購入を促して売上と利益を増やすことが目的です。この考え方には、顧客ロイヤリティが“利益”に直結しているという事実が背景にあります。マーケティングを学んだことがある人は、次のような言葉を聴いたことがあるのではないでしょうか。

「1:5の法則」
 新規顧客に販売するコストは、既存顧客に販売するコストの5倍かかる。
「5:25の法則」
 顧客離れを5%改善すれば、利益が25%改善される。

 もちろん業種や業態などによって差はありますが、新規顧客がリピーターとなって製品やサービスを何度も購入する率が高くなれば、確実に売上と利益が向上します。これが顧客ロイヤリティを追求する目的です。

 “自社でもCSには取り組んでいるし、既にいろいろと手を尽している。”そういう企業も多いのですが、よく話を聴いてみると活動内容が断片的であまり効果が出ていないケースが多いようです。また、顧客ロイヤリティの大切さを認識していても、具体的に何から手を付ければ良いのかわからないという話も聞きます。そこで、過去に私が実際に業務で経験したケースを簡単にご説明したいと思います。

 当時、私は外資系化学会社で農薬を製造・販売する事業部のマーケティング担当でした。その時に北米市場で導入されたマーケティング手法が、ロイヤリティ・マーケティング(顧客ロイヤリティ管理)でした。当時社内では“データベース・マーケティング”と呼んでいました。対象市場はトウモロコシ農家で、目的は約38万戸のファーム(農場)に対して顧客ロイヤリティを高め、自社製品の除草剤や殺虫剤を販売することでした。

 顧客ロイヤリティ管理は、次の5つの手順で行います。

①顧客データベースの構築と更新管理:

顧客データベース(顧客リスト)を構築して、これを適宜継続的に更新する。

②顧客ランク設定と各ランクの活動計画策定:

顧客ごとにランクを付けて、そのランクごとにプロモーションを考える。

③プロモーションの実施と効果評価(レイティング):

プロモーションを実施して、実施前と実施後で効果を評価する。評価は数値データで行い、売上額と使用比率(シェア)を中心に効果評価(レイティング)する。

④顧客ランクごとに次のプロモーションを策定・実施:

実施後の問題点や課題を洗い出し、次のプロモーションを考える。これを繰り返す。

⑤情報を共有し活用する:

営業担当者や関係者に情報をフィードバックして、それぞれの業務で情報を活用する。
各部門・各担当がそれぞれ活用内容を考え、情報の有用性や要望などをフィードバックする。

 この活動でマーケティング担当者が最も留意すべきポイントは、①顧客データベースの構築と更新管理、③プロモーションの実施と効果評価(レイティング)の2点だと教えられました。

 まず、顧客データベースの構築は、農業専門雑誌に協力を依頼してその定期購読者にアンケートを取る形で顧客データベースを構築しました。購読者の基本情報、その年の作付面積、購入した農薬ごとの金額と効果が重要管理項目です。データの更新は毎年年末にアンケート調査を実施して、回答者にはお礼やカレンダー(当時人気があったのは、クラシックトラクターの写真が載ったカレンダー)をプレゼントしていました。

 プロモーションの効果評価(レイティング)は、購読者がアンケートに回答した内容から行います。その年の作付面積と各農薬の購入額から概算で使用面積が算定できますから、作付面積に対して自社の農薬がどの程度使われているのかが推測できます。その比率と効果や満足度から顧客ランクを振り分けます。地域や競合の動向によって、あきらかにお客様の使用量や満足度が変動するのが分かるため、北米で数百人いる営業担当者はこの結果を物凄く気にしていました。

 この結果を踏まえて、各営業担当者は地域に影響力のあるリーダー的な農家に対して説明会を実施したり、より効果的な使用方法を相談したりするようになりました。これまでは一方的な商品の売り込みや値引きなどが営業活動の中心だったのですが、顧客ロイヤリティ管理を導入してからは問題解決型の営業活動を行うように変わり、こうした活用を行った営業担当者の売上は確実に増えました。効果評価(レイティング)が悪い顧客に対しては、直接訪問して何が悪かったのか、改善すべき点は何なのかを聴いて対処するようになりました。

 こうした営業活動の変化は、競合製品への乗り換えを抑制することに繋って、コンペ対策にも有効であることが分かりました。直ぐにでも「日本でも導入すべきだ!」と、本社のマーケティング責任者からは言われたのですが、当時日本の主力商品は水稲用除草剤(お米の除草剤)で直販はしていませんでした。さらに、問題だったのが顧客データベースの構築と更新管理で、北米トウモロコシ農家40万戸のデータベース更新管理には毎年1億円以上掛かっていたのですが、当時の日本の総農家数は380万戸(現在は250万戸を切ります)、そのうち専業農家数は50万戸ですから数億円の費用が掛かることになります。そんな予算が捻出できる訳もなく、市場規模を説明した段階で「なるほど直ぐにはムリだね」という残念な結末になりました。今ならその何分の一の費用で顧客データベースの構築と更新管理が可能ですから、チャンスがあれば是非ともチャレンジしたいところです。

ポイントサービス市場の動向

 顧客ロイヤリティ管理の成功事例として、必ず取り上げられるケースに東京ディズニーランドがあります。皆様も一度は訪れた事がある場所ではないかと思います。その集客力とリピート率は圧倒的で、他の追従を許しません。入園者数データは東京ディズニーランド(株式会社オリエンタルランド)のホームページで公開されていて、開業した1983年は993万人でしたが2012年はその3倍近い2750万人の人が訪れています。(http://www.olc.co.jp/tdr/guest/

 「レジャー白書 2013」(2013年8月/公益財団法人日本生産性本部発行)によると、遊園地・レジャーランド市場規模は6,550億円あり、東京ディズニーランドを運営する株式会社オリエンタルランドのシェアは47.6%と圧倒的です。その成功の秘訣は、「SCSE」という行動規準にあると言われています。これは以下の4つの頭文字より「SCSE」と呼ばれています。(http://www.olc.co.jp/csr/safety/scse.html

【Safety】(安全):
安全な場所、やすらぎを感じる空間を作りだすために、ゲストにとっても、キャストにとっても安全を最優先すること。
【Courtesy】(礼儀正しさ):
“すべてのゲストがVIP”との理念に基づき、言葉づかいや対応が丁寧なことはもちろん、相手の立場にたった、親しみやすく、心をこめたおもてなしをすること。
【Show】(ショー):
キャストが、あらゆるものがテーマショーという観点から考えられ、構成されているテーマパークのショーの一部として、身だしなみや立ち居振る舞い、施設の点検、清掃など、「毎日が初演」の気持ちを忘れずに、ショーを演じ、ゲストをお迎えすること。
【Efficiency】(効率):
安全や礼儀正しさ、ショーを無視して効率を優先しても、ゲストにハピネスを提供することはできないことから、安全、礼儀正しさ、ショーを心がけ、チームワークを発揮することで、効率を高めること。

 すべてのキャストは、入社時にディズニーフィロソフィー(哲学)を学ぶとともに、配属先でもトレーニングの一環として「SCSE」を学びます。キャストは「SCSE」を念頭に置き、常に判断や行動のよりどころとしています。これが、初めて訪れるお客様もリピーターのお客様にも期待した以上の満足度を提供する基準となっているのです。

顧客ロイヤリティ管理を成長戦略にする最新CRMソリューション

ロイヤリティイメージ

 携帯電話や自動車を見れば、「新しい製品を作れば自然に売上が上がる」、という時代がすでに終わっていることが分かります。家電業界やアパレル業界を見れば、「大量生産して価格を安くして薄利多売すれば量産効果で儲かる」というほど簡単な時代でもなくなりました。しかし生き残るためには成長戦略が必要です。携帯電話はスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスに進化して、業務や用途に合わせてコンテンツやサービスを自在に組み込めるようになりました。メールやスケジュール管理が外出先でも簡単に使えて、社内システムに接続すれば客先で在庫確認や納期回答ができます。自動車や建設機械にはGPSとセンサーが組み込まれていて、その所在や動作状況をモニターすることで渋滞の回避や故障した際のトラブルに迅速に対応できます。電気屋の店頭で欲しい掃除機やテレビを見つけたら、その場でスマートフォンから安くてお得なネット通販で購入することができます。店頭に欲しい色とサイズのシャツが無くても、バーコードを読み込んでネットで在庫確認して直接取り寄せることも出来ます。インターネットやシステム化が進んだことで、モノやサービスの購入は簡単になり、その一方で競争は激しくなっています。

 厳しい市場環境のなかで勝っている企業は、アップルやトヨタ自動車、ユニクロや無印良品、ZOZOTOWNやAMAZONといった最新IT技術を利用した顧客情報管理システムを導入している企業です。

 こうした企業は顧客ロイヤリティ管理に最新IT技術である「クラウド、モバイル、ビッグデータ、ソーシャル」を導入しています。
 顧客データベースの構築と更新管理には、クラウドやCRMソリューションを利用して素早い構築、柔軟な機能拡張、コストの抑制に成功しています。
 スマートデバイスなどモバイルを使ってネットショッピングをするECサイトは簡単に構築することが可能です。
 新規顧客の開拓やショッピングセンターへ顧客を誘導するキャンペーン・ツールを使って顧客の嗜好や過去のキャンペーン結果にもとづいた効果的な販促ができます。
 顧客とのコンタクト頻度を上げるためには来店や購入に応じてポイントを付加することで、リピーターを確保することができます。
 クレームや各種問い合わせには、迅速かつ的確に顧客対応する必要があります。コンタクトセンタや苦情管理ツールを導入し、クレームの傾向や相関などを分析してCSを上げる必要があります。
 こうしたVOC(お客様の声)を重視するポイントは、情報収集はシステムで行っても、顧客対応はひとつひとつ担当者が丁寧に対処することです。顧客がコールセンタに問い合わせても、延々と音声ガイドでたらい回しされれば二度と商品を購入しようとは思わないでしょう。顧客は、常に自分を個客(個人として認識された顧客)として、特別扱いされることを期待しています。東京ディズニーランドで全てのキャストが、“すべてのゲストがVIP”と考えて行動しているのを想像してください。ゲストが期待している以上に、提供された商品やサービスに価値を感じた時に顧客ロイヤリティは向上します。全ての顧客に、それぞれの嗜好にあった商品やサービスを提供するツールを使うことで、顧客ロイヤリティ管理はコントロールすることが可能です。

 勝ち組企業の成長戦略のなかに最新CRMソリューションがどのように活用されているのか、あるいは失敗した企業は何故上手くいかなかったのか、について本コラムで取り上げてきたいと思います。全5回の連載になりますが、よろしければ最後までお付き合い下さいますようお願い申し上げます。

日立ソリューションズのCRMソリューション

 CRMの役割は、顧客のロイヤリティを高め、顧客セグメントのステージアップを実現し、企業の収益性を向上させることです。日立ソリューションズのCRMソリューションは、顧客ロイヤリティ管理を包括的にサポートします。

図1 日立ソリューションズのCRMソリューション

図1 日立ソリューションズのCRMソリューション

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鍋野 敬一郎 氏の写真

鍋野 敬一郎 氏

株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師

1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(ビジネス連携委員会委員、パブリシティ委員会委員エバンジェリスト)

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製造業に押し寄せる新たな波「インダストリー4.0」――。
生産システムがつながる「スマート工場」の登場により、生産現場、サプライチェーン、われわれの暮らしはどう変わるのか!?
インダストリー4.0の立役者ヘンニヒ・カガーマンはじめ、日本GE、経産省のインタビュー、専門家の論考などにより、21世紀の新産業革命を多角的に読み解く。

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連載目次

顧客ロイヤリティと新マーケティング戦略一覧

第1回:顧客ロイヤリティ管理が成長戦略の鍵となる

第2回:ネット時代の顧客ロイヤリティ管理、生き残るための秘訣とは

第3回:お客様の経験を通じて価値を提供し顧客ロイヤリティを高める

第4回:なぜ企業はお客様の声VOCを聞き間違えたのか

第5回:進化する顧客ロイヤリティ管理の実現、「第三の波」を乗り越える策



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