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特集・コラム

第3回 FTAが果たすグローバルサプライチェーン改革 第3回 FTAが果たすグローバルサプライチェーン改革

FTAによるデジタルなサプライチェーン変革

 今までの企業の抱える経営変化は比較的アナログな(連続的な)変化でした。急激な円高などもありましたが、それでも環境変化は不連続ではなく連続的でした。その連続性の中で企業は対応していけばよかったのです。しかし、FTAによる関税の削減は、企業経営に非連続な経営環境変化をもたらします。

 FTAは複数国(地域)間の協議により、関税削減などを決定、発効します。その導入は発効日および関税の改定日をもって行われます。ある商品に対して、ある国では今まで20%あった関税が、ある日を境にゼロになることがあります。関税20%の撤廃となれば、商品の原価にも大きな影響を与え、それにより最終販売価格も大きく変わります。図1のように輸入する国によって関税が変わってくるのがFTAの姿ですから、他の国から輸入する競争相手に対する価格競争力も大きく変化します。

図1 とある商品のMFN関税、FTA関税

図1 とある商品のMFN関税、FTA関税

 事例を見てみましょう。
 韓国はEUと2011年に、米国とは2012年にFTAを発効させました。それにより、韓国国内の自動車市場は大きく変化しました。自動車の関税が削減されたEUから販売価格を下げた自動車輸入が増え、日本のメーカーは韓国への自動車輸出をFTAのない日本からではなく、FTAのあるアメリカ生産のものにし、値段を下げました。価格競争力をつけた海外メーカーの積極的な戦略により韓国国内の外国車のシェアは上昇しています。FTAにより競争力はある日突然変わります。それを最大限に活用するように調達先も変更するのです。
 一方、ヒュンダイは、韓国とEUのFTAが決まった際に、グローバルSCMの一部を変更しています。これまではインドからEUへの自動車輸出をしていましたが、韓国EUのFTAが発効されると、EU向けの生産地をインドから変更、インドの国内市場の拡大に相まって、まず、インド産の車はインド国内市場に振り向けました。そして、FTAメリットのある工場からEUへの輸出を始めました。
 このように、FTAは迅速でフレキシブルなSCM変更能力を企業に求めるのです。

グローバルサプライチェーンに有効な「累積」とは

 ASEANや日ASEANのEPAであるAJCEP、そしてTPPのような地域間FTAは、二国間FTA以上に企業の戦略に有利な仕組みを提供します。それは「累積(Accumulation)」と呼ばれるものです。

 企業のサプライチェーンは、部品→生産→販売といった多階層に分かれます。
 例えば、部品(日本)→生産(タイ)→販売(インドネシア)というサプライチェーンを考えましょう。FTAは、日本→タイ、タイ→インドネシアの2つのパターン別に原産性を証明する必要があります。
 その一方、日ASEAN・EPA(AJCEP)であれば、これらの国は一つのFTAに包含され、その域内で作られる物は原産品として扱われます。このAJCEPの例なら生産に使われる日本製部品はASEAN製として扱える可能性があります。そして、ASEAN域内で生産、輸出する際は、完成品もAJCEPの原産地規則を満たしやすくなります。

 多国間FTAでは、この累積というルールが適用されることが多いため、原材料から販売までをFTAでカバーでき、効率的なSCMを構築しやすいのです。TPPやRCEPなど広域FTAでは、部品→生産→販売というサプライチェーン全体で効果を最大限にするために、部品の調達先をFTAに合せて変更することも戦略上の選択肢になります。

FTAがグローバルサプライチェーンをどう変えるか

 では、グローバルサプライチェーンがFTAにより、どれだけ変わるかを事例で見てみましょう。

 以下のようなサプライチェーンのケースを考えます(図2)。
  ●部品の供給:日本、マレーシア、フィリピン、中国
  ●アセンブリ:タイ
  ●販売先:インドネシア

図2 ベースケースX

図2 ベースケースX

 このサプライチェーンでは、いくつかのFTAが適用できます(図3)(注:AJCEPでは現段階ではインドネシアは発効していません。あくまでシミュレーションとしてください)。
  ●シナリオA:AJCEP+中国ASEAN・FTA(ACFTA)
  ●シナリオB:ASEANのFTA(AFTA、ATIGA)を中心に、AJCEP、ACFTA
  ●シナリオC:ACFTAを中心に、日タイEPA(JTEPA)

図3 FTAの活用パターン(部品生産国を変えない場合)

図3 FTAの活用パターン(部品生産国を変えない場合)

 それらを適用して、生産コストがどうなるかを見ましょう(図4)。

図4 現在のサプライチェーンに対してのFTAの影響

図4 現在のサプライチェーンに対してのFTAの影響

 現在のコストが125となる中で(ベースケースX)、一番コストが低いのがシナリオBとなります。コストが110となり、15のコスト削減となります。同じサプライチェーンの仕組みでFTAはこれだけのコスト削減に貢献をします。

 では、FTAのメリットを生かして、部品の生産地を変えてみましょう(図5)。
  ●シナリオP:AJCEPを活用するために中国→フィリピン
  ●シナリオQ:AFTA(ATIGA)を活用するために、中国→フィリピン、日本→マレーシア
  ●シナリオR:シナリオQをベースに、中国からのパーツを変えない場合

図5 部品の調達先を変えた場合のシナリオ

図5 部品の調達先を変えた場合のシナリオ

 ソーシングを変えることにより、生産コストがどうなるかを検討します。ここでは生産コストを比較します(図6)。

図6 サプライチェーン変更後のシナリオ別コスト

図6 サプライチェーン変更後のシナリオ別コスト

 コストは更に10下がり、全体で100となります。現状コストが125ですから、20%のコスト削減が可能です。それであれば、サプライチェーンを変えることも戦略オプションになりますね。FTAはこういったサプライチェーンを変更するトリガーとなるのです。

 サプライチェーンの変更には、変更先の品質や、変更に伴うリードタイムの変化、労務環境やカントリーリスクなどコスト以外にも様々考えなければいけませんが、その検討をするに値するものがFTAなのです。

嶋 正和 氏の写真

嶋 正和 氏

株式会社ロジスティック 代表取締役

【学歴】
東京大学工学部電子工学科卒業
欧州経営大学院(INSEAD)MBA取得

【職歴】
コンサルティング、物流企業での実経験の中から、ノンアセット型3PLサービスを経営の立場から構築、運営を展開。株式会社プランテックコンサルティング(社外)取締役

-ボストン・コンサルティング・グループ
 ・情報システム・ロジスティクス関連プロジェクト
-フットワーク・エクスプレス
 ・物流会社にマーケティング、戦略の導入を実施
-ローランド・ベルガー・アンド・パートナー・ジャパン
 ・ロジスティクスの包括アウトソーシングを核とした改革コンサルティング
-ロジスティック
 ・設立時に大前研一氏主催のビジネス・プラン・コンテストで大賞受賞

嶋氏著書 戦略的FTA 活用ハンドブック メリットとコンプライアンスの写真

嶋氏著書

戦略的FTA 活用ハンドブック メリットとコンプライアンス

出版社: Web販売のみ(2018年6月発売予定)

章立て(予定)
 -第1章 FTAと戦略的活用
 -第2章 FTAの基礎
 -第3章 FTAのメリットを享受するには
 -第4章 日本企業のFTA活用の問題
 -第5章 日本企業の課題の解決はこれでできる!
 -参考資料
 -図表目次
 -索引
 -語彙集
 -FTAお役立ちサイト
 -FTAに関する相談窓口

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