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第三回「鈴木明子選手が五輪代表になるために活路を見出した理論とは」|脳が変わればビジネスも変わる 脳医学者 林成之の成果を生み出す勝負脳講座|システム構築やトータルソリューションをお探しなら、日立ソリューションズをご利用ください。

第三回「鈴木明子選手が五輪代表になるために活路を見出した理論とは」
第三回「鈴木明子選手が五輪代表になるために活路を見出した理論とは」

「心」「技」「体」この3つが優れていなければ最高のパフォーマンスを生み出せない、と考えがちです。しかし、林氏は「心」「技」「体」を結び付けるのは「脳の力」であり、「脳の力」があれば「心」「技」「体」で突出したものがなくても最高のパフォーマンスを出すことは可能だと言います。それではどうすれば「脳の力」を引き出すことができるのか、フィギュアスケートの鈴木明子選手の例を引き合いに解説します。

「勝ち方」=「目標」に集中すると、新境地を開くことができる

 ソチオリンピックで金メダリストに輝いた羽生結弦選手も、私の指導を受けたアスリートの1人です。その頃の羽生選手は、ジュニアでは飛びぬけた選手でしたが、高橋選手や小塚選手を脅かす存在ではなく、どちらかというとシニアの大会では伸び悩んでいる雰囲気でした。しかし、羽生選手は私の話すことをノートにびっしりとメモしていて、とてもまじめな子だというのが私の印象でした。

 彼には主に「体軸」の話をしました。近年はよく「コアトレーニング」などと称し、「体幹」を鍛えるのが一種のブームとなっていますね。実は体幹を鍛えるのは軸を支える力を鍛えるわけで間違っていないのですが、体幹力がそのまま運動に直結するものではないのです。それよりも大事なのは、左右の肩甲骨の下にある「体軸」の「可動支点」を意識し、うまく使うこと。これはフィギュアスケートに限らず、すべてのスポーツに共通する理論でして、私が発見した独自の理論でもあります。「可動支点」という名称も私がつけました。フィギュアスケートの大会のリンクで、コーチが演技に向かう羽生選手の背中を叩いて押し出している姿を見たことがあると思いますが、その部分です。この可動支点から背骨を通って骨盤に至るように筋肉が伸びているので、ジャンプを跳ぶ際にはとても重要なのです。以来、彼はジャンプが安定し、あれよあれよという間にオリンピックで金メダルを取ってしまいました。スノーボードスラロームで銀メダルを取った竹内智香選手にも可動支点を意識して滑ると足首に力が集中してターンのキレが良くなり、後半爆発的に加速する滑りが可能になるとアドバイスをしました。その後の著しい成長を見るかぎり間違っていないと思います。

 「心・技・体」。よくスポーツで使われる言葉ですが、オリンピックに出場するような選手ともなると、その「心・技・体」すべてを兼ね備えているのはわりと当たり前です。そうでないとオリンピック選手にはなれないでしょうから。つまり、単に「心・技・体」が揃っているぐらいのレベルでは、オリンピックで勝つことはできないのです。

 脳医学的にいえば、「心・技・体」それぞれの領域が重なり、オーバーラップしている部分に「本能」があります。つまり「心」と「技」、「心」と「体」、「技」と「体」、をそれぞれ結びつけ、うまくバランスをとって、最高のパフォーマンスを引き出すために必要なもの。それが「本能」であり、その「本能」を司るのが「脳の力」、ということになります。

 逆に言えば、「心・技・体」のどれかが特別優れていなくても、「本能」をうまく働かせる「脳の力」よって、勝つことは可能である、ということがいえます。「心・技・体」のどれか、もしくはすべてが突出した才能の持ち主でないと、オリンピックで金メダルは獲れない、と思われがちですが、そうとは限らない、と私は思っています。

 そのいい例が、女子フィギュアスケートの鈴木明子選手です。彼女は摂食障害で苦しんだ時期があり、まさに土壇場から立ち直ってオリンピックに出場した人です。また、女子フィギュア選手としては異例の遅咲きでしたので、日の当たらない下積みの期間も相当長かったようです。彼女にはじめて講義したとき、フィギュアスケートという競技は、「技だけで勝つのではなく、滑り・音楽・観客と一体化する同期発火の演技で、人に感動を与える」ものだと言う話をしました。そのためには、普段から何事にも気持ちを入れる習慣を身につけるようアドバイスをしました。そこから彼女は一気に階段を登り始めた感じがしています。それまでにももちろん「心・技・体」においては一定のレベルにあったのでしょうが、もう一段上に行くためには何かが足りなかった。その何かが、このアドバイスで見つかり、脳にスイッチが入ったのでしょう。音楽を聴いて感動する「心」が、「本能」によって「技」や「体」とつながることで、素晴らしいパフォーマンスを生み出したのです。

 「人に感動を与える演技をする」というアドバイスは、「目的と目標を取り違えてはいけない」という前回の話に通じるはずです。鈴木選手は、“勝つ”という目的よりも、“勝ち方”(=人を感動させる)という「目標」に集中することで、見事に五輪代表を勝ち取りました。浅田真央選手のように技術的に難易度の高いトリプルアクセルを飛べなくても、人を感動させることができる。それがフィギュアスケートという競技の面白さであり、鈴木明子選手が生きる道だったのです。

前向きな気持ちでいると考えと体がつながり、「心・技・体」を発揮しやすい。
前向きな気持ちでいると考えと体が
つながり、「心・技・体」を発揮しやすい。

 「心・技・体」ということでもう少し突っ込んだ話をしますと、本来人間の脳は、考えと運動系をつなぐところにストッパーがかかっています。考えと運動系が一体にならなければ、「心・技・体」の力を最高に発揮することはできませんから、その脳のストッパーを外す必要があるのです。ドーパミン系神経群の働きが弱いと、ストッパーを外すのは意外に難しいのです。とくに、すぐ「失敗したらどうしよう」などと考えるような安全志向の性格の人は外しにくいようです。それに比べ、性格が前向きで明るい人がストッパーを外しやすい、と考えられています。つまり、前向きで明るい気持ちを常に持つことが大事だということです。そして、「大変だ」「無理」といった否定語を一切使わず、1回ごとに無心で集中すること、気持ちを高めることを心がけてください。そうすると、脳と体の機能をつなぐ高速道路のような回路ができて、考えと体が勝手に動くようになります。一流のスポーツ選手がたいてい明るい性格なのも、こうした理由があるからなのです。

 例えば、部下が何か失敗したとき、叱ったり、「なぜ失敗したんだ」などと問い詰めたりすると、部下は萎縮してしまい、考え方もネガティブになってしまうので良くありません。大事なのは、「私もかつて失敗をしたけれど、こうしたらうまくいくようになった」というような話をしてあげることです。その上で、「君だったらどうする?」と質問してみましょう。もし、「私もそうしてみます!」といった前向きな言葉が返ってくれば、自己報酬神経群が育まれ、考える力がついている証拠です。このようにして、自己報酬神経群が機能するように仕向けるのです。さらに、「あなたならもっといい方法が考えられるのでは?」と付け加えてあげると、その部下の考える力や「心・技・体」の才能を発揮する能力を高めることができるでしょう。

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