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「バーチャルエンジニアリング」の現在地 製造業DXの柱に

バーチャルエンジニアリングで先行する欧州

バーチャルエンジニアリングで先行する欧州

バーチャルエンジニアリングで先行するのは欧州だ。ドイツや英国などでは国の産業政策と結びつけ、官民共同でバーチャルエンジニアリングの導入を促進している。

民間では、英国の自動車メーカー・ジャガーなどがバーチャルエンジニアリングの導入に積極投資している。同社は年間1,300万ポンド(約20億円)をバーチャルエンジニアリングに投資し、数値流体力学(CFD)ソフトウェアやCAEツールなどのもと、さまざまなバーチャルモデルの作製を行っている。具体的には、流体力学・空気抵抗や熱管理、サスペンション、耐衝撃構造、パワートレインの開発など、さまざまな特性を持ったモデルを作り出しているという。また、不確定要素の多いエアフローに空力音響モデリングを使用し、ワイパーなどの細かなツールをシミュレーションすることでノイズを最小限に抑制することなども可能という。

欧州では、自動車の型式認証制度においてもバーチャル認証の導入が進められているようだ。従来の認証においては、詳細設計を施した実物の自動車を用意し、認証を受ける。量産化の一歩手前の段階だ。一方、バーチャル認証では、仕様が決定していれば詳細設計を行う前の段階でバーチャルデータによって認証を受けることができ、量産化に向けたその後の事業活動もスムーズに行うことができるようだ。

日本国内でも導入・普及に向けた動き

日本国内でも導入・普及に向けた動き

国内では、経済産業省の「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業」の中で、シミュレーション技術を活用した開発高度化や認証の実態調査が行われている。自動運転開発において重要性を増す開発・性能評価のプロセスにおけるバーチャルシミュレーションやモデルベース開発の導入や、バーチャル認証に関する動向の調査・分析などが進められている。

また、同省が作成した「2020年版ものづくり白書」においても、製造業の企業変革力を強化するDX施策の中でバーチャルエンジニアリングに言及している。同書によると、3Dデータのみで設計を行っている企業は 17%にとどまり、関連企業への設計指示の半数以上がいまだに図面で行われているという。

(出典:2020年版ものづくり白書)
(出典:2020年版ものづくり白書)

そのうえで、3D CAD の導入が進んでいる企業ほど製品設計力が向上し、製品設計のリードタイムが短縮しているとし、3D CAD の利用がエンジニアリングチェーンの強化に大きく貢献し、バーチャルエンジニアリングを進めることはエンジニアリングチェーンの強化に不可欠としている。

このほか、日本自動車工業会(JAMA)が3D図面の標準化やデータ交換運用に関するガイドラインを策定するなど、デジタルエンジニアリングに関する標準化活動を進めている。

民間では、製造業における変革の推進を目的とする団体「Virtual Engineering Community」も設立されているようだ。

国際競争力強化に向け、バーチャルエンジニアリングが必要不可欠な存在に

バーチャルエンジニアリングの普及に向けては、3D CADのスタンダード化をはじめとした各社のDX化が必然となるほか、欧州のようにバーチャル認証制度を導入するなど、国としての促進策や支援策なども求められるところだ。

日本が築き上げてきたモノづくりの精神・高品質性をスポイルすることなく、開発・製造現場を変革していくのは容易ではないかもしれないが、国際競争に打ち勝つためには必要不可欠なイノベーションだ。

製品開発・製造のプロセスをいちから見直し、未来に向けた新たなスタートに期待したい。

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