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【最新ソリューション・インタビュー】製造業におけるDXの実現に向けてポストモダンERPの真価と将来性

執筆者情報

竹下 順也
  • 株式会社 日立ソリューションズ
    産業イノベーション事業部 グローバル本部 グローバル推進センタ
    主任技師

1996年 旧日立ソフトウェアエンジニアリング(現)日立ソリューションズに入社。
製造業向け基幹業務システム開発に従事。
2002年よりSAP社のERPパッケージを使った基幹業務システム導入に従事し、数多くのプロジェクトでプロジェクトマネージャーなどを歴任したのち、近年はSAP社、Microsoft社などのERPソリューションのマーケティング活動や周辺ソリューションの新規立ち上げ活動に従事。

【最新ソリューション・インタビュー】製造業におけるDXの実現に向けてポストモダンERPの真価と将来性

大きく変化する世界市場での企業の競争力が問われています。その中でさまざまなデータとデジタル技術を駆使し、自らの改革と新たな価値創出を実現するために必須とされるデジタルトランスフォーメーション(DX)。今回は、製造業におけるDX実現に向けた第一歩となる、ポストモダンERPの導入について、当社の産業イノベーション事業部 グローバル本部 グローバル推進センタの竹下 順也にインタビューしました。

目次

  • ― 製造業の現状と、DX推進の重要性
  • ― DX実現に向けてのポストモダンERPの役割
  • ― SAP S/4HANA連携によるソリューション
  • ― DX/SX実現のパートナーとして
  • ― ポストモダンERPの連携事例紹介

製造業の現状と、DX推進の重要性

― 現在の製造業が抱える問題とは何でしょう。
竹下:ここ数年でニューノーマルという概念が一般化し、働き方や業務の形態が変化しています。例えばリモートワークに伴う業務のオンライン化、ペーパーレス化、押印の電子化などが顕著な例です。これらによって、今まで属人的であった業務の標準化や自動化が求められています。これは製造業に関しても同じく大きな課題となっています。

― 特定の人に頼っていた業務を、誰もが共有できるようにするということですか。
竹下:例えば、一部の人に依存していた製造ラインの管理などの業務を標準化・自動化することで、より高い生産性を実現できます。これは、少子高齢化による人材の不足といった問題の解決にもつながります。現在、定年退職で離職する熟練者が増える一方で、若い人材の確保が難しくなっていますが、業務を標準化・自動化することで、より少ないリソースでの対応が可能になります。

― ヒューマンリソース以外にはどのような課題がありますか。
竹下:世界情勢の不確実さでしょうか。今回のパンデミックもそうですが、異常気象、地政学的リスクなど、不測の事態が増えている傾向にあります。そのような先が見通せない中にあっても、製造業を含めたあらゆる企業が柔軟に適応していくことが求められています。

― 企業活動がグローバル化しているからこその問題でしょうか。
竹下:先が読めない中であっても、グローバルサプライチェーンを意識した活動を継続していく必要があります。また世界的な課題となっている、カーボンニュートラルへの対応も企業価値に直結する喫緊の課題となっていますね。

― それらの課題解決として、DXが必要となってきているわけですね。
竹下:複雑に関連する、さまざまな問題に対して常に最適な“解”を導き出すために、ビッグデータ、AI、IoTなどを活用することが求められています。データとデジタル技術を利活用することで、市場やビジネス環境の変化に応じ、業務形態や組織体系などを変革し、そこから新たな価値を創出していく。DXは今後、企業が存続するための必須条件となっています。

― DXによって、製造業にどのような効果が期待できますか。
竹下:例えば、これまで「在庫は悪」として在庫を最小化することが主流でしたが、現在は半導体や希少な部材などの需給のひっ迫から「ある程度の在庫は持つ必要がある」という在庫の最適化の考え方が変化しています。半導体不足のように、予期せぬサプライチェーンの混乱で需給バランスが崩れるような場合にも柔軟に対応する必要があるからです。そのための生産計画には、市場と自社データの解析などが必要ですが、これらにビッグデータ、AIを活用することで、精度の高い生産計画を立てることができます。また、生産機器の保守・整備・交換に関しても、IoTの活用などで省人化と精度向上ができます。最近話題になっているカーボンニュートラルの実現についても、DXへの取り組みが必要とされています。

図1 製造業の現状における課題
図1 製造業の現状における課題

DX実現に向けてのポストモダンERPの役割

― DXとERPの関係はどのようなものでしょうか。
竹下:ERPは、会計などのバックオフィス系の業務が主軸となりDXの蚊帳の外と思われがちですが、ERPは“System of Record”であり、企業の現状を正確に記録することが基本的な役割で、さまざまな業務のデータを連携して、それを管理するためのシステムです。 したがって、ERPは企業の変革や新たな価値創出が、どのような効果や結果に結び付いているかの現状を正確に捉えるための“鏡”となります。つまり、DXを推進していくための基盤となるわけです。

― ERP導入がDX実現のスタートになるのですね。
竹下:経済産業省の『DXレポート』によるとDXには段階的なフェーズがあるとしています。これから、DX推進をスタートさせ、現状を確認しながら着実に段階をクリアしていくためにERPは最適なシステムです。しかし一方で、DXの進捗(しんちょく)やそれに伴う企業の変化、そして時代の変化などに応じて、今後ERPも進化していくことが求められると考えます。

図2 DXフレームワーク
図2 DXフレームワーク
出典:「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-2.pdf)

― ERPの進化とは何でしょうか。
竹下:DXに求められるERPには「ビッグデータ、IoT、AIなどでデータを利活用できる基盤」、「ビジネスモデルの変化への柔軟な対応力」、「最新のサービスやソリューションとの連携」などが求められます。しかし、従来のERPの導入方式では膨大なアドオンを作り込んでしまい、適用範囲の拡大や新機能の追加、バージョンアップの際に、コストと時間が大きな負担となっていました。この問題をクリアすることが必要だったのです。

― その課題を解決するシステムが、ポストモダンERPなのですね。
竹下:ポストモダンERPの考え方では、システムの基本となるコア部分を標準のまま利用し、各企業の固有業務や新たに追加したい業務をSaaS・周辺ソリューションで疎結合することによって、基幹システムを短期間に低コストで構築できます。さまざまな環境変化にも柔軟に適応する、DX推進に最適なシステム構築の考え方です。

図3 ポストモダンERPとは
図3 ポストモダンERPとは

SAP S/4HANA連携によるソリューション

― ポストモダンERPによるメリットはどのようなものですか。
竹下:当社ではポストモダンERPを実現する製品を複数取り扱っていますが、SAP社のERPについてお話しします。 SAP S/4HANAは、ERPと親和性の高いアプリケーションを疎結合で効率的に開発できるクラウド統合技術基盤 (PaaS)が提供されています。これによって、例えば、AIを活用した解析・予測、RPAによる自動化、ノーコード・ローコードでのアプリケーション開発を可能にし、システムの周辺にさまざまな付加価値を生み出すことができます。状況に応じて必要なシステムを段階的に構築していくことができるのです。

― 自社の状況に合った、ERPの周辺ソリューションを開発できるということですね。
竹下:時代に応じて、周辺のソリューションも刻々と進化しています。現状では対応ができない機能なども、数年後にはSAPの新たなサービスが提供されて、解決できるといったことも期待できます。実際、SAP社はS/4HANAのメンテナンスを2040年までコミットするとしており、新バージョンのリリースに合わせて最新テクノロジーを反映した新しい機能がリリースされていく予定で、導入によってその恩恵を受けることができるのです。

― SAP S/4HANA連携の導入はどのように進められますか。
竹下:SAP S/4HANAにはクラウド、オンプレミスで複数の提供形態が用意されています。そこから、お客さまの要望に沿った最適なERPコアモジュールを提案。そこに日立ソリューションズで扱っている、SAP S/4HANAと連携可能なPaaSによる拡張基盤や、分析ソリューションなど、ERPとの連携に強みのあるシステムを付加します。ほかにもサービスやソリューションがありますので、それらも組み合わせて導入のお手伝いをします。

― 「導入のイメージがつかめない」というお客さまもいらっしゃいますか。
竹下:SAP S/4HANAの場合、前身のSAP ERPからの移行にお悩みのお客さまも多く、そのようなお客さまには移行アセスメントサービスをお勧めしています。ワークショップやデモセッション、ツールを使用した予算規模の算出、当社のSAP S/4HANA環境でのPoCサービスなどを通じて、導入にかかる期間やコストを具体的に算出し、SAP S/4HANA導入の方針、手順などを整理・理解していただけます。

― 日立ソリューションズで扱っているSAP S/4HANAと連携できるソリューションはどのようなものがありますか。
竹下:分析・データ利活用、電子帳票・文書管理、RPA・ビジネスモダナイゼーションなどさまざまなソリューションがありますが、このコンテンツの最後に、最近特にお問い合わせが多い、安全保障貿易管理ソリューションとSAP S/4HANAとの連携事例をコラムとしてまとめました。ぜひご覧ください。

図4 SAP S/4HANA移行アセスメントについて
図4 SAP S/4HANA移行アセスメントについて

DX/SX実現のパートナーとして

― 日立ソリューションズの提供する、ポストモダンERPの今後の展望は。
竹下:ポストモダンERPも含め、日立ソリューションズ、そして日立グループとして、私たちはお客さまのDX推進だけではなくサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に貢献していきます。そのために日立グループの持つさまざまなリソースとソリューションを生かしていただければと思います。今後も新たなソリューションやサービスを開発して、企業の価値創造をお客さまとともにめざしていきます

― つまりDX/SXパートナーとしての役割を担うということですね。
竹下:そうです。システムの導入だけでなく、導入後も継続的に段階的なDX/SX推進をサポートしていきます。そして、システムの保守サービスやDX/SXにマッチしたソリューションの提案、さらには製造業に向けたDXの提案を行っています。持続可能な企業活動のために、より長くおつきあいのできる “DX/SXパートナー”として日立ソリューションズを選んでいただいています。

― 企業のグローバル市場での競争力も大きな課題ですね。
竹下:海外拠点でのDX/SX推進も非常に重要な課題となってきます。私たち日立ソリューションズグループは、世界16か国、28拠点とグローバルに展開しており、連携してお客さまの海外拠点におけるDX/SX推進を支えています。

― 最後に読者の方々へのメッセージを。
竹下:当社には、ERPのソリューションとして、SAP、Microsoft Dynamics 365、mcframeやFutureStageをご用意しています。製造業、流通・卸、商社・販社などさまざまな業種のお客さまへの導入経験およびパッケージの長所・短所を熟知した経験豊富なSEがお客さまに最適なERPパッケージと周辺ソリューションを提案し、お客さまのDX/SX推進をワンストップでトータルにご支援します。どうぞよろしくお願いします。

― 本日はありがとうございました。
竹下:ありがとうございました。

ポストモダンERPの連携事例紹介

ポストモダンERPの具体例として、
当社の安全保障貿易管理ソリューションとの連携事例をご紹介します。

  まず安全保障貿易管理ソリューションとは、引き合いから出荷業務までの過程において、全社・全部署で一貫性のある基準、統一手順で各審査業務が行えるソリューションです。
  具体的には、顧客審査、該非判定、取引審査の機能を持っており、懸念取引先リストに掲載されていないかの照合や、政省令改正による該非判定見直しのフォロー、輸出入実績データのチェックにより法令違反リスクの低減を図ることが可能です。
  これまでも、SAPと安全保障貿易管理ソリューションは豊富な連携実績があります。
先にポストモダンERPのメリットとして挙げた、「アドオン開発の削減によるコスト低減」、「ビジネス環境の変化(法令の変更など)に迅速・柔軟な適応可能システムの実現」などが可能となります。
  また具体的な連携による効果としては、「SAP(基幹システム)のマスタデータ(顧客や品目)を安全保障貿易管理ソリューションに連携することによる、業務効率化や審査内容の誤入力・入力漏れの防止」、「受注、出荷データと連携することによる、未審査での出荷防止と法令違反リスクの低減」、「取引審査データをINVOICEやPacking Listなどの貿易文書のインプットデータとして連携することによる、貿易実務の効率化とコンプライアンスチェックの両立の実現」などが挙げられます。

図5 安全保障貿易管理ソリューションとSAPを連携したシステムイメージ
図5 安全保障貿易管理ソリューションとSAPを連携したシステムイメージ

SAP、SAP S/4HANAは、SAP SE社の米国およびそのほかの国における商標または登録商標です。
DYNAMICS 365は、Microsoft Corporationの米国およびそのほかの国における商標または登録商標です。
mcFrameは、ビジネスエンジニアリング株式会社の登録商標です。
FutureStageは、株式会社日立製作所の登録商標です。
そのほか、本記事に記載の社名、商品名などは各社の商標または登録商標である場合があります。

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