スマートマニファクチャリングソリューション

製造業の経営と製造現場をつなぐデジタルイノベーションの実践

連載『スマートマニュファクチャリングの実現』#03

ERP+MES、経営と製造現場をつなぐERPとMESの位置関係

 これからのMESに蓄積されるデータは、IoTや最新の五感センサー、画像/動画などデジタル化によってこれまで以上に多種多様でと大容量のデータが増えると思われます。そして、このMESに蓄積されたデータは、工場間・工程間で共有されてスマートファクトリーを実現するヨコの連携を支えます。更に、MES管理指標の標準化(ISO22400)は経営と製造現場を双方向につなぐタテの連携の可能にするかもしれません。具体的には、これまで製品別の製造原価は原価要素の実績値を配賦処理して算出していましたが、これだと正確な原価がわかるのは費目別の月次処理後になります。最近の中国と北米の貿易戦争などが為替の変動やサプライチェーンに大きな影響を与えると、標準原価と実際原価などで乖離が大きくなります。製造原価の見通しを誤って、大赤字になるリスクが大きくなります。そこで、IoTやMESのデータを利用して週次/日次ベースでできるだけスピーディーに原価計算を行うモデルを作って製造現場の速報を経営へ即時伝達します。これは、かつてERPが実現した管理会計の仕組みを製造原価計算にも適用するイメージです。変化をきめ細かく把握するために、MESに蓄積された作業時間や人件費、数量や設備稼働データなどから活動原価計算ベースで原価変動の計画/実績比較を週次/日次で管理します。管理会計的な製造原価の変動を内部レポートとして経営や事業部門、購買部門などに提供することでどの原価要素が原価変動にどれくらい影響を及ぼすのかを速報します。例えば、歩留りが悪くて製造オペレーションコストが高くなる要因は、作業時間と人件費にあるという指標からわかります。逆に生産拠点がある国の為替レートが大きく下落した場合は、為替が安定している国で調達した原材料を持ち込んで安くなった人件費で生産して同じ価格で売れば利益が増えることになります。ただし、物流費や関税の影響もあるのでサプライチェーンの見極めがポイントとなります。最新のシステムでは、このような分析を行うERPシステムや原価原価シミュレーションシステムなども登場しています。※参考となるシステムとしては、SAP LeonardoやaPrioriなど。

(図表6:IoT/MESデータによる活動ベース原価計算のメリット)

図表6:IoT/MESデータによる活動ベース原価計算のメリット

 MESにIoTのデータを蓄積してこれをERPに連携することで、製造現場の状況を製造原価の速報として経営へタイムリー伝えることができれば競争力を高めることができます。スマートファクトリーの本質は、ものづくりに関するデータを収集して、このデータを活用した新しいものづくりビジネスを実現することだと思います。IoTやデジタル化は、これまで暗黙知であったノウハウを形式知化するための手段に過ぎません。ポイントは、IoTでものづくりを見える化することではなく、IoTで収集したデータを利用して「製造オペレーションの最適化」と「ものづくりビジネスの差別化」の両方で効果を出すことにあります。

(図表7:スマートファクトリーに対応したグローバルCVP分析をIoT/MESで高度化)

図表7:スマートファクトリーに対応したグローバルCVP分析をIoT/MESで高度化

(図表8:経営と製造現場をつなぐ、ERPとMESの位置関係)

図表8:経営と製造現場をつなぐ、ERPとMESの位置関係

まとめ

 製造原価の算出をIoT/MESデータを活用して行うという取り組みは、現在筆者が所属するインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)という組織で行っています。(先進技術研究分科会の“IoTと管理会計研究分科会ASG-001”と業務シナリオワーキンググループの“拡張MESによる工場間工程間のリアルタイムデータ収集・活用4E02”など)IoTやデジタル化に取り組む企業や組織は多いのですが、目的と手段が曖昧になっているケースもあります。今回は、具体的なケースを取り上げて手段と目的を整理してみました。次回は最終回となりますが、スマートファクトリーを実現したその先へ行くための生き残り戦略とアクションプランについて考えます。先行事例を真似しているだけでは、トップに立つことができません。日本流スマートマニュファクチャリングについて、考察したいと思います。

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