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コラム

女性活躍推進に取り組む企業に求められる対応

女性活躍推進に取り組む企業に求められる対応

「仕事で活躍したい」という希望を持つすべての女性が、自分の個性や能力を存分に発揮できる社会の実現をめざして制定された「女性活躍推進法」。少しずつ女性が活躍できる社会になってきてはいるものの、依然として出産や育児を理由に離職する女性は多く、まだ女性が十分に力を発揮できる状態になっているとは言えません。この状態を是正し、女性がより活躍できる環境を整えることは労働力不足解消にもつながります。ここでは、女性活躍推進法の内容と、企業が対応すべきポイントについて解説します。

女性活躍推進法とは

女性活躍推進法は2015年に公布され、2016年4月に全面施行されました。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」で、10年間の時限立法です。この法律の目的は、以下のとおりです。

自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮されることが一層重要。このため、以下を基本原則として、女性の職業生活における活躍を推進し、豊かで活力ある社会の実現を図る。

厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要」より引用

この女性活躍推進法によって義務化されることは、以下の3つです。

  • 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
  • その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表
  • 自社の女性の活躍に関する情報の公表

義務化の対象となっている組織は、国と地方公共団体、常時雇用する労働者が301人以上の企業です。常時雇用する労働者が300人以下の企業に関しては、努力義務とされています。
ただし、令和元年に法改正が行われたことで、令和4年4月1日からは「一般事業主行動計画の策定・届出義務および自社の女性活躍に関する情報公表」の義務の対象が、常時雇用する労働者101人以上の企業に拡大されることに注意してください。
また、この女性活躍推進法が施行された背景には、下記のような課題があります。

男女雇用機会均等法の施行から30年が経過し,法制度の整備は大きく進展したが,なお実態面での男女の格差は残っている状況にある。また,我が国では,女性は出産・育児等による離職後の再就職にあたって多くが非正規雇用になることなどが,雇用の不安定化や低賃金といった問題を生じさせるばかりでなく,キャリア形成を通じた女性の十分な能力の発揮を阻む一因となっている。女性の就業率は,近年,大きく上昇したものの,就業する女性に比して,管理的職業に就く女性の数が欧米諸国等に比べ低い水準となっている。働く場面において女性の力が十分に発揮されているとはいえない状況であり,働くことを希望する女性が,その希望に応じた働き方を実現できるように社会全体として取り組むことが重要である。また,少子高齢化の進展に伴い,将来の労働力不足が懸念される中,日本の持続的発展のために,企業の収益性・生産性を高めなければならないが,そのためにも,女性の活躍推進を早急に推し進め,女性の力を最大限に発揮していくことが喫緊の課題である。

内閣府男女共同参画局Webサイトより引用

なお、女性活躍推進法に基づいて、一定基準を満たし、かつ、女性の活躍促進に関する状況などが優良な企業を認定する「えるぼし認定」という認定制度があります。さらに、えるぼし認定企業の中でより高い水準の要件を満たした企業については「プラチナえるぼし認定」を受けることができます。「プラチナえるぼし認定」を受けた企業は、一般事業主行動計画の策定・届出が免除されます。
この「えるぼし認定」の認定基準には、「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」という5つの評価項目があります。この中の1つでも認定基準を満たしており、その実績を毎年厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」に公表すれば、「えるぼし認定」を受けることができます。認定基準を例示すると、評価項目である「採用」については、「男女別の採用における競争倍率(応募者数/採用者数)が同程度であること」とされています。ただし、女性活躍推進法又は女性活躍推進法に基づく命令に違反したときには認定取り消しの対象になるので注意が必要です。

女性活躍推進における課題

女性活躍を推進していくためには、法律で義務化されている内容にしたがって社内制度などを整えることはもちろん必要ですが、女性活躍を阻んでいる課題があることをしっかりと認識しておくことが重要です。ここからはその課題について、具体的に解説します。

1つ目の課題は、男性中心の企業風土が根強く残っていることです。実際に一部の企業では、「女性は家庭に入るべきだ」といった古い考え方や、出産や妊娠の可能性を考え、上司が女性に重要な仕事を任せないようにしているといった慣習がまだ根強く残っていることがあります。その結果、女性は経験不足や成果不足が影響し、より一層重要な役職に就けなくなったり、女性自身も意欲を失って退職を選択してまったり、という負の連鎖が起こってしまいます。女性を育てる企業風土へ変えていくためには、女性を部下に持つ上司が、その女性を会社の戦力として扱うことが求められます。それが管理職になることへのモチベーションにつながり、女性管理職を増やすことができるのです。

2つ目の課題は、育児と仕事の両立ができる環境が整っていないことです。上記のとおり、企業としては、活躍できる場を女性に与え、管理職へ積極的に登用していく必要がありますが、注意しておかなければならないこともあります。それは、価値観や生活スタイルが多様化しており、管理職になることだけが働く女性にとってのモチベーションではないということです。仕事だけではなく、育児にも力を入れたい女性にとっては、両者をバランスよく両立できる環境こそが重要です。もちろん、育児・介護休業法によって育児休業制度が定められており、企業の多くはこれを遵守しています。しかし、それだけではなく、時短勤務制度や、より充実した内容の育児支援制度をそれぞれの企業が整備し、一人ひとりの女性が自分に合ったキャリアプランを安心して描けるようにしていくことが必要です。そのうえで、本人の希望があれば管理職への登用もできるといった制度があると、より女性の活躍が進むと考えられます。

3つ目の課題は、企業として明確な目標が示されていないことです。女性が活躍できるようにしていきたいと考えている企業は多くありますが、その目的が具体的に示されていないケースが多くあります。女性が活躍することで会社としてどう成長していくのか、どういう企業になりたいのかが分からないと、社内の理解や協力は得にくくなり、いくら制度を充実させても活用されないといった状況が生まれてしまいます。また、日本の企業では、ロールモデルとなる存在がまだ育っていないため、もっと仕事で活躍したいと思っている女性も、自分の将来を具体的に描くのが難しい状況です。企業側が女性活躍推進の目的や目標、ありたい姿を明確に示すことで、女性は自分の進むべき道を見出しやすくなります。

女性活躍推進に取り組む企業のメリット

上記のような課題はあるものの、女性活躍推進に取り組むことで、企業には以下のようなメリットがあります。

メリットその1:優秀な人材を獲得しやすくなる
求職者が就職先を選ぶ際に重視するポイントのひとつは、働きやすさです。女性活躍推進に取り組んでいる企業は、「働きやすい環境を整えるために努力している」「社員のことを大事にしている」といった印象を持たれるでしょう。特に育児との両立ができるかどうかが気になる求職者に対して、充実した制度があればアピールしやすくなります。これによって応募数が増えれば、自ずと優秀な人材を獲得しやすくなります。人手不足が予想されている日本社会で、採用活動に有利になることは、企業にとって大きなメリットです。

メリットその2:離職されにくくなる
働きやすい環境を整えることは、採用がしやすくなるだけはありません。従業員が、出産や育児、介護といったことをきっかけに離職することなく、長期間就業しやすくなります。

メリットその3:企業イメージが高まる
上で述べた「えるぼし認定」に関して、認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを自社の商品やサービスなどに付けることができます。この認定マークを活用することで、女性の活躍が進んでいる企業としてPRし、企業イメージの向上につなげることができます。

メリットその4:公共調達で加点評価される
公共調達とは、公共工事や公共サービスのシステム構築の入札契約など、国や政府が物やサービスを民間から購入することです。この加点評価については、下記のように定められています。

各府省が、価格以外の要素を評価する調達(総合評価落札方式・企画競争方式)を行うときは、ワーク・ライフ・バランス等推進企業(女性活躍推進法、次世代法、若者雇用促進法に基づく認定(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定等)の取得企業や女性活躍推進法に基づく計画策定中小企業)を加点評価。

取組の実施に当たっては、不正な手段を使った企業が採用されることのないよう、適切な基準を設定し、公正かつ客観的な評価や取扱いを行う。(具体的な配点は、各府省において設定。)

内閣府男女共同参画局「女性の活躍加速のためのワーク・ライフ・バランス等を推進する企業を公共調達等において評価する取組について」より引用

5つ目のメリットは「日本政策金融公庫の融資が低金利になる」です。「えるぼし認定」を受けると、日本政策金融公庫が実施している「地域活性化・雇用促進資金(企業活力強化貸付)」を利用する際に、基準利率からマイナス0.65%での低利融資を受けることができます。

女性活躍推進法対応の流れ

女性活躍推進法に対応するため、企業は次に示す4つのステップを順に行う必要があります。

<ステップ1> 自社の女性の活躍に関する状況の把握、課題分析
まずは自社の女性の活躍に関する状況を把握しましょう。厚生労働省は、企業が把握すべき必要最低限の項目として4つの「基礎項目」を定めています。まず「基礎項目」から見えてきた課題を分析します。さらに、より分析を深めるための「選択項目」を活用し、課題の原因を分析します。

状況把握のための「基礎項目」

  • 採用した労働者に占める女性労働者の割合
  • 男女の平均継続勤務年数の差異
  • 労働者の各月ごとの平均残業時間数などの労働時間の状況
  • 管理職に占める女性労働者の割合

企業ごとの実情に照らし、必要に応じて把握すべき「選択項目」

  • 労働者に占める女性労働者の割合
  • 男女別の将来の育成を目的とした教育訓練の受講の状況
  • 男女別の1つ上位の職階へ昇進した労働者の割合
  • 男女の賃金の差異
  • 男女別の育児休業取得率および平均取得期間

など

<ステップ2> 一般事業主行動計画の策定、社内周知、外部公表
ステップ1で行った自社の状況把握、課題分析の結果を勘案し、企業は一般事業主行動計画を策定します。この行動計画には、具体的な「計画期間」、「数値目標」、「取組内容」、「取組の実施時期」を盛り込む必要があります。
「計画期間」については、2025年度までの期間で、おおむね2年間から5年間に区切り、定期的に行動計画の進捗を検証しながら改定することと定められています。
また、「数値目標」については、常時雇用する労働者数301人以上の企業の場合、2020年4月1日以降が始期となる行動計画を策定する際は、原則として、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」および「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」に関する項目から、それぞれ1つ以上の項目を選択し、それぞれ関連する数値目標を定めた行動計画を策定する必要があります。
「取組内容」については、男女雇用機会均等法に違反しないよう注意しましょう。

「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」の項目例

  • 男女別の採用における競争倍率
  • 男女別の配置の状況
  • 各職階の労働者に占める女性労働者の割合および役員に占める女性の割合
  • 男女別の職種又は雇用形態の転換の実績

など

「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の項目例

  • 男女の平均継続勤務年数の差異
  • 男女別のフレックスタイム制、在宅勤務、テレワークなどの柔軟な働き方に資する制度の利用実績
  • 労働者の各月の平均残業時間数などの労働時間(健康管理時間)の状況
  • 有給休暇取得率

など

<ステップ3>一般事業主行動計画を策定した旨の届出
行動計画を策定したら、管轄する都道府県の労働局に届出をします。届出の方法は、電子申請、郵送または持参です。届出の様式は、厚生労働省が用意している「一般事業主行動計画策定・変更届(参考様式)」を使用すると良いでしょう。

<ステップ4>取組の実施、効果の測定
行動計画の届出が完了したら、策定した計画に沿って、実際に取組を進めていきます。また、数値目標の達成状況や、行動計画に基づく取組の実施状況を定期的に点検し、評価することで、目標達成に向けて着実に取組を進めていくことができます。

なお、この<ステップ1>から<ステップ4>は、一度やれば終わりではありません。取組結果の評価を行ったら、その後の計画に反映させて、さらに取組を実施。PDCAサイクルを確立させましょう。
また、上記の<ステップ1>から<ステップ4>とは別に企業が対応すべきものとして、「女性の活躍に関する情報の公表」があります。この公表に関して、常用労働者301人以上の企業は義務化されており、300人以下の企業は努力義務とされています。(但し、法改正により、令和4年4月1日からは常用労働者101人以上の企業で義務化)
公表の方法は、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」、もしくは、自社のホームページへの掲載とされています。自社の女性の活躍に関する情報を公表することで、優秀な人材の確保や競争力の強化につなげていきましょう。

女性活躍推進法対応のポイント

女性活躍推進法に対応するためのポイントについては、上記「女性活躍推進における課題」でも触れたとおり、「働きやすい環境の構築」と「意識改革」が重要です。
仕事と育児や介護を両立しながらその能力を十分に発揮してもらうためには、長時間労働を是正し、多様な働き方を認めるなど、職場環境の見直しが不可欠です。特に、出産後も安心して働ける環境づくりは重要です。時短勤務制度や在宅勤務制度を導入するだけでなく、上司や同僚に気兼ねなく制度を活用できるような体制をつくるようにしなければなりません。
また、現在は共働き世帯が増加しており、男性が家事や育児、介護などを行うケースが増えてきています。「家庭のことは女性に任せる」といった考えをやめ、男性がより積極的に家事や育児、介護に参加することで、家庭内での女性の負担が減り、職場で活躍しやすくなることが期待できます。そのため、企業としても、男性が家庭生活に参加することを推進するような制度や文化を醸成し、これからは性別に関係なく仕事と家庭生活を両立させることができるような職場環境を整えることが必要です。
なお、「意識改革」を進める方法のひとつとして、社員研修や意見交流会を開催するのがおすすめです。自社の成長のため、さらには日本社会の成長のためには女性の活躍が不可欠であることを伝えたり、そのために必要なことは何かを話し合ったり、社内の環境整備についての意見を出し合ったりすることで、女性活躍推進を自分ごととして捉えられるようになります。

企業が受け取れる助成金

女性活躍推進法に対応する中小企業に対して、「両立支援等助成金」という助成金を支給する制度があります。

女性労働者の能力の発揮及び雇用の安定に資するため、自社の女性の活躍の状況を把握し、男性と比べて女性の活躍に関し改善すべき事情がある場合に、当該事情の解消に向けた目標を掲げ、女性が活躍しやすい職場環境の整備等に取り組み、その結果、当該目標を達成した中小企業事業主に対して、助成金を支給する。
本助成金における中小企業事業主とは、常時雇用する労働者数が300人以下の事業主をいい、中小企業事業主の判定は、支給申請日の属する月の初日における企業全体で常時雇用する労働者の数で行う。

厚生労働省「両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)支給要領」より抜粋

取組目標を実施した結果、3年以内に数値目標を達成し、達成状況を厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」に公表すれば、47.5万円の助成金を受け取ることができます。
ただし、令和4年3月31日をもって本助成金は廃止される予定で、令和4年3月31日までに行動計画の策定・届出を行った事業主は引き続き申請できる予定となっています。最新の情報は、厚生労働省・都道府県労働局雇用環境・均等部(室)にお問い合わせください。

まとめ

ここまでに紹介したとおり、女性活躍推進法に対応するために企業が行うべきことは、簡単なことではありません。しかし、人手不足の時代が訪れようとしている今、働きやすい職場をつくり、女性が活躍できる環境を整えることは、企業にとって向き合わなければならない課題です。そして、女性がその能力を今よりもっと発揮できれば、企業の成長にとって、間違いなくプラスになります。女性活躍推進法に対応しながら、未来を生き抜く企業へと変革していきましょう。

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