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コラム

空間情報活用コラム第8回

センシング技術を用いた現場改革(後編)

GISを活用した企業の事業継続・災害対策の取り組み

前回は、高精度なセンシング技術とデータ解析技術が、さまざまな現場業務を支援している例を紹介しました。今回のコラムは、建設現場での人手不足や長時間労働の軽減、コスト削減を可能にする「建設テック(ConTech)」「i-Construction」での活用例を紹介していきます。

スマホ撮影の動画から、盛土や掘削箇所の体積を算出

土木工事では工期の遵守はもちろん、利益を考えた作業計画と遂行が重要となります。そのためには、日々の進捗状況を正確に把握しておく必要があります。盛土や掘削のような工程では、進捗状況に合わせて重機や運搬車両、人員を手配する必要があり、臨機応変に計画を調整していかなければ、コスト増や工期遅延につながってしまいます。

最近ではドローン(UAV)で現場上空から撮影した画像や、地上からレーザースキャナで計測した値から3Dモデルを生成して、盛土や掘削箇所の体積を計測し、予実管理に役立てるという手法が用いられるようになっています。しかしこうした手段を用いるには、資格を持った人材や高価な機材を用意しなければなりません。コストがかかるだけでなく、計測したいときに人員や機材の都合がつかなかったり、天候によっては計測を延期せざるを得ないこともあります。

「もっと簡単に、誰でも正確な計測ができたら……」という現場のニーズに対し、身近なスマートフォンを使った取り組みが注目されています。スマートフォンを片手に計測したい盛土の外周を歩きながら動画で撮影し、そのデータをクラウド上にアップロードすれば、自動的に盛土の体積が算出されるというものです。
実はこうした簡易な計測システムの背後でも、高精度な位置測位技術や画像データの解析技術が活用されています。動画の撮影時は、高精度測位のための特殊なアンテナを使用することで衛星による高精度な位置情報を同時に取得します。動画データと位置情報データはスマートフォンを通じてクラウド上にアップされ、その動画データはクラウド上で位置情報付きの3Dモデルへと変換されます。これを元に盛土の体積が算出されるというわけです。

その結果はスマートフォンで確認できるので、専門の人員や機材は不要になるうえ、計測時間も大幅に短縮されるというメリットがあります。正確な状況を把握できるようになれば、予実の確認や、それに応じた計画変更、人や重機の手配も円滑に進められることでしょう。

高精度な位置情報を取得しながら動画撮影し、クラウド上で盛土の体積を算出

人手と時間のかかる鉄筋検査を、大幅に効率化

建築現場には、手間と時間を要する工程が多々あります。前回のコラムでも解説したとおり、建設業界は高い成長率を示しているものの、現場の人手不足は深刻です。そのような状況下、負担となっている作業の一つが、RC(鉄筋コンクリート)造における鉄筋出来形検査です。RC造の場合、建物の柱や梁、床や壁はまず鉄筋で組まれ、その外側にコンクリートを打って強度を高めますが、建物の大きさや構造などによって、どの部分にどの直径の鉄筋を何本、どの間隔で配置しなければならないか、建築基準法で定められています。コンクリートを流す前に、基準を満たす鉄筋がきちんと入れられているかをチェックするのが、この鉄筋出来形検査です。

この作業は基本的に、施工管理員の立ち会いの下、経験のあるスタッフが、ノギスやメジャーを用いて行っていました。また計測結果を写真に記録するために、撮影スタッフ、撮影データを書いた黒板を保持するスタッフ、計測対象となる鉄筋に目印を付けるスタッフなど、数名の人員が必要とされます。建物が大きければそれだけ検査箇所も増え、必然的に要員の数も検査時間も膨らんでしまいます。

現在ではこうした作業の効率化を図る計測技術も進み、タブレット端末を使って手軽に行える検査手法が実現しつつあります。それは特殊なカメラで検査すべき箇所を撮影すると、鉄筋径や配筋間隔などがリアルタイムに計測されるといったものです。これは、さまざまな方式・手法が建設会社などで試行されていますが、ここでは当社の「鉄筋出来形自動検測システム」での手法をご紹介しましょう。
本システムでは、通常の画像を撮影するRGBカメラと、光の反射を利用して被写体との距離を測定するToF(Time of Flight)カメラをタブレット端末に装着します。(※1)検査時に鉄筋を撮影すると、2つのカメラによって同時に同じ撮影範囲の情報が記録されます。ToFカメラのデータからは鉄筋との距離をイメージ化した画像が生成され、これをRGBカメラの画像と自動合成し、必要な数値データを付加した、ひと目でわかりやすい計測結果画像ができあがるというわけです。
(※1:現在はToFカメラが標準で装備されたタブレットも存在します。)

専用カメラとタブレット端末で鉄筋出来形検査の負担を削減

このシステムを使えば、検査や記録に関わる人員を最小限にでき、検査・記録を誰にでも任せられるようになります。現場作業における効率化と省力化を実現することで、経験と技術を備えたスタッフを検査作業から解放し、その能力をより発揮できる業務に割り振れるようになります。

まとめ

かつて土木・建築の現場といえば、数々の経験の中で技術を磨いてきた職人達が、それぞれの得意領域を担当しているというイメージがありました。しかし労働力人口の減少により人手不足は深刻化し、技術継承も困難になり、職人たちが培ってきた熟練の技も失われつつあるのが現状です。

こうした課題を解決するため、センシング技術や解析技術を用いたさまざまな取り組みが進んできました。現在では先進的な技術を投入しつつ、スマートフォンやタブレットなど身近にあるデバイスから操作できるさまざまなソリューションが登場しています。こうしたICT技術を積極的に活用することで、人手不足やそれにまつわる長時間労働の軽減、さらにはコスト削減や納期短縮につながります。現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進めば、業界全体の成長にもつながることでしょう。
そしてこれこそが、「建設テック(ConTech)」や「i-Construction」がめざす未来なのです。

掲載日:2020年09月16日

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