「スマート農業」とは?
GISを駆使した国内・海外の最先端農業

空間情報活用コラム第4回

地理情報システム(GIS)はクラウドやAI、IoTなどの先端技術と融合することによって大きな発展を遂げ、さまざまな分野に革新をもたらしています。今回はその例として「農業」分野におけるGISを紹介します。ITとは無縁に思われることも多い分野ですが、ここでは一体どのようなデジタライゼーションが起きているのでしょうか。

日本の既存農業が抱える課題は「生産性向上」

日本には豊かな田畑があります。それは、豊かな土があるということです。桜島や浅間山などの噴火は大きな被害をもたらしますが、一方で土の原料となる火山灰を大量に供給しているのです。火山活動のないアフリカでは、1cmの土が作られるまでに約1,000年という気の遠くなるような時間が必要ですが、日本では同じ量の土が約100年という速さで形成されます。

さらに、世界平均で2倍という豊富な降水量と、北海道でも夏期は平均21度を超えるという温暖さによって、日本の気候は作物の育ちやすい環境をもたらしてくれています。

しかし、恵まれた自然環境でありながら、日本の田畑は年々減少を続けています。1960年では607万ヘクタールだった農地面積は、2014年には452万ヘクタールにまで縮小しました。

農地面積の動向:農地面積等の推移出典:農林水産省「平成27年度 食料・農業・農村白書」

農地面積の動向:農地面積等の推移
出典:農林水産省「平成27年度 食料・農業・農村白書」

その最大の原因は、就農人口の減少による労働者不足です。2010年には260万人だった農業就業人口は、2018年には175万人となりました。この8年で就農人口が3割も減っています。高齢化は深刻で、平均年齢は66.8歳。65歳以上の方が多いという現状なのです。

農業の縮小は、そのまま自給率の低下に現れています。カロリーベースの食糧自給率は1965年時点で73%、2017年時点で37%です。もしアメリカやオーストラリアで大干ばつが起きて食料輸出が抑えられてしまったら、食糧不足になってしまうでしょう。

少ない人数でいかに生産性を高めていくのか? 収穫量を増やし、作物の品質を向上させ、農業経営をどのように高度化させていくのか? 今、その鍵として推進されているのが「スマート農業」です。

「スマート農業」とは? 自動運転農機やIoTセンサーによる農業のIT化

スマート農業とは、ロボットやAI、IoT、ドローンといった先端のIT技術と、長年培われてきた農業技術とを融合させた新たな農業です。スマート農業のテーマのひとつは「作業の自動化」であり、自動運転機能を備えたトラクターや農機がさまざまなメーカーから販売されています。

トラクターとは、農作業用の牽引車です。アタッチメントを取り替えることによって、雑草を刈ったり、土を耕したり、種を蒔いたり、肥料や農薬を散布したり、収穫したりと、多方面にわたって活躍します。

これを自動化すると、どのような効率化ができるのでしょうか。たとえば、ある自動運転トラクターには、高精度位置情報を活用して決められたルートを自動で走行する機能があります。自動運転トラクターが土を耕しながら前を走行し、その後ろを有人のトラクターが種を蒔きながら追従すれば、ひとりで複数の作業を同時に行うことができ、省力化につながります。

管理された工場と違って、自然の中では中断した作業がそのまま再開できるとはかぎりません。耕した翌日に雨が降ってまたやり直し、ということも往々にしてあります。ひとりで複数の農機を扱えるようになることは、かなりの効率向上をもたらすのです。

自動運転農機にはこのほかに、いちど走らせれば田畑の形状を覚えて自動走行する機種や、土壌の肥沃度をその場で分析して肥料の散布量を自動調節してくれるような機種なども登場しています。

スマート農業では「センシング」も盛んに取り組まれています。たとえば稲作にとって水の管理はもっとも重要なポイントですが、田んぼにセンサーを設置することによって、水温・水量等を常に計測し、水門の自動調整が実現できます。

自動運転農機や農業用センサーといったIT技術の導入は、農作業の効率化だけでなく、データの蓄積と可視化を容易にしてくれます。日々取得されるデータを蓄積・分析することによって、どのような育て方をすれば高品質な作物が多く獲れるのか、栽培と環境制御のノウハウを導きだせるようになるのです。

現場への実装が進むスマート農業:スマート農業技術の例(水田作)<br>出典:農林水産省「平成30年度 食料・農業・農村白書」

現場への実装が進むスマート農業:スマート農業技術の例(水田作)
出典:農林水産省「平成30年度 食料・農業・農村白書」

しかし、こうした方法でスマート農業を推進するには、新たな農機やIoTデバイスの購入が必要になります。日本の農家は小規模なところがほとんどです。水稲経営の場合、統計上ひとりあたりの平均所得が400万円を超えるのは作付面積が15ヘクタール以上ですが、それだけの田んぼを持っている農家は全体の2割にも届きません。

高年齢の小規模農家にとってはITへの投資が難しいため、スマート農業を日本全体に実装するには、別の視点が必要となります。

地域が共同して農業分野においてGISを活用

個々の農家でIT農機を導入することが難しいという状況の中、北海道では、グループ単位で栽培データを利活用する取り組みが続けられています。

そもそも土地と関係の深い農業は、GISと極めて親和性の高い分野です。その場所を誰が耕したのか、何を栽培したのか、どんな肥料をやったのか、土のタイプは何か、気候はどう変動しているか、といったさまざまな情報は、日々の農作業や来年の営農計画にダイレクトに活かすことができます。

北海道の中でも特に農業が盛んな十勝地方の場合、ひとつの農協につき生産者200〜300人がグループを形成しています。各農協はGISを使って個々の田畑に関するデータを一元管理し定量化することで、優れた農業を実践しています。

それはたとえば、成功事例の共有です。自信満々のベテラン農家の収穫量が多いとは限らず、若い新規参入者が良い成績を収めることもあります。具体的な数字を勉強会で共有し、肥料の種類や散布するタイミング、種を蒔く密度などのデータを学ぶことによって、地域全体の収量を改善することができるのです。

「GeoMation 農業支援アプリケーション」圃場・土壌管理システム

「GeoMation 農業支援アプリケーション」圃場・土壌管理システム

ほかにも、同じ作物を同じ畑に植える「連作」の警告や総収穫量の予想、土壌分析結果に基づいた最適な肥料の種類や量のアドバイス、衛星画像の分析による小麦の最適な収穫時期の算定など、さまざまな機能が農業用GISアプリケーションに備わっており、これらを活かして農協がアドバイスをしています。

1年に数回しか収穫できない農業の場合、ひとりで集められるデータには限りがありますが、同じ地域で結集することによって、より細やかなデータ活用型の農業が実践できるようになるのです。

スマート農業の潮流は? データのフル活用と小型のロボットによる未来農業の可能性

スマート農業の普及に伴って、さまざまなデータが集まり始めます。これらのデータを使って、勘と経験ではなくデータに基づいた農業の実践につながることが期待されます。

農林水産省はデータを活用した農業を促進するため、農業データ連携基盤(通称WAGRI)を構築し、国や自治体が所有している圃場図や地番、土壌データなどのオープンデータや、農業気象データに基づく作物の生育予測機能などの提供を開始しています。WAGRIを経由して農機メーカーやITベンダー間のシステム連携を行うことも可能です。

WAGRIが提供するオープンデータを活用することで、たとえば農業分野におけるGISの導入時に手間がかかった圃場データの初期登録作業が軽減され、また、農家にITサービスを提供する企業は、WAGRIを活用することでそれぞれが得意としている機能を組み合わせて提供できるようになるため、農業分野におけるIT活用の拡充が期待されています。

一方、海外のスマート農業はどのような潮流を見せているのでしょうか。日本と比べて広い土地を使える海外では、長年、農機の大型化が主流でした。とてつもない大きさのコンバインを使って、GPSの高精度位置情報を活用しながら広大な土地をあっという間に正確に耕してしまうという方法論だったわけです。

しかし、農機が大型化すればするほど、その重量は増えてしまいます。「いくら耕して畑を柔らかくしても、タイヤで踏んで畑を固めてしまうため非効率」という研究結果も報告されるようになってきました。

そこで、大型の農機ではなく、小型のロボットを複数協調させて農作業をする試みが行われています。高性能なAIを搭載した親機が正確な位置を把握し、残りが追従することによって、作物を1株ずつ世話する丁寧な農作業を、広い面積で実施しようというものです。この分野はフィールドロボティクスと言われています。

自分の持っている田畑の広さに合わせた数だけロボットを購入すればよいので、実用化すれば、スマート農業への敷居がさらに下がることでしょう。

日本でも、昨年から準天頂衛星「みちびき」のサービスが開始され、"cmオーダー"の高精度な位置情報が農業現場でも利用できるようになっています。「みちびき」と小型ロボットの組み合わせが、日本で普及する時代がすぐそこまできているのかもしれません。

まとめ

日本には豊かな田畑があるにも関わらず、耕作放棄地が増え、農業従事者が減り続けています。少ない人数でどれだけ高品質作物を多く収穫できるか、生産性の向上こそが、日本農業が直面している課題なのです。そのため10年ほど前から、ITによって効率化を図る「スマート農業」が推進されています。

自動運転農機や農業センサーは農業をオートメーション化するのみならず、データの収集による新たな施策を可能にしますが、中小零細の農家にはなかなか導入が難しいものです。そこで、地域共同でのGISの活用が取り組まれています。さらに近年は、農業ロボットの開発が世界各地で取り組まれており、小型のロボットたちが自律して農作業をする姿が、田畑の風物詩になる日も遠くないのかもしれません。

掲載日:2019年12月23日

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