スマートマニファクチャリングソリューション

製造業の経営と製造現場をつなぐデジタルイノベーションの実践

連載『スマートマニュファクチャリングの実現』#03

“匠の技”をデジタル化して日本のものづくりを強くする方法

執筆者情報

鍋野 敬一郎
  • 株式会社フロンティアワン 代表取締役
  • IVI パブルシティ委員長
  • エバンジェリスト
同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウデュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(組立工場、化学プラントなどの業務知識・経験)、基幹系(ERP/SCMなど)、クラウド(エンタープライズ系:PaaS、SaaSなど)、製造現場システム(MES/MOM/IoTなど)の調査・企画・開発・導入の支援に携わる。一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)のサポート会員であり、IVIのエバンジェリストをつとめる。

はじめに

 前回は“匠の技”をデジタル化して暗黙知を形式知化して、日本のものづくりを更に強くすることと、このノウハウを守るためにはすべてをデジタル化するのではなくデジタルとアナログの境界線を見極めて、守るべき“匠の技術”の一部をアナログで残しつつノウハウを磨き続ける必要があることをお話しました。デジタル化は、企業が取り組むべきテーマとして良く使われる言葉ですが、その意味や定義を正しく理解しているベンダやメディアはまだ少ないようです。今回は、デジタル化の効果について経営と製造現場をつなぐ具体的なソリューションについてお話します。

『業務を最適化するデジタル化』と『ビジネスを差別化するデジタル化』

 デジタル化には、『業務を最適化するデジタル化』と『ビジネスを差別化するデジタル化』の二面性があります。『業務を最適化するデジタル化』とは、センサーや画像解析など技術を使って業務を効率化したり、自動化したりして生産性を向上するデジタル化です。手間と時間を省くので働き方改革や省力化/省人化に即効性があります。アナログ→デジタルへの置き換えは、前回ご紹介した通り数多くの取り組みが行われています。即効性があるのでカイゼンには向いていますが、誰でも真似ができるというデメリットもあります。また、何でもかんでもデジタル化すると、守るべきノウハウまで真似されてしまうリスクがあります。『ビジネスを差別化するデジタル化』とは、顧客へ提供する製品やサービスをデジタル化して機能強化やコスト削減して優位性を高めることです。

 『匠』の技術には、作業時間短縮や徹底的にムダを省くといった“最適化の技術”と、トラブル解決や難易度の高い新しい取り組みを確実にクリアするといった“差別化の技術”の二面性があります。この“差別化の技術”は守るべき技術です。そして、この“差別化の技術”のデジタル化はイノベーションを生む源泉となります。例えば、機械の故障を予見する『匠』の技術をデジタル化できれば、他社と比べて圧倒的に故障しない機械を顧客に提供できます。エレベーターや工作機械など故障して止まると困るモノを作るメーカーにとって、この「止まらない(ゼロ・ダウンタイム)」デジタル化は事業戦略の中心となります。ビジネスの差別化とは、他社と比較して製品/サービスの機能が優れていること、価格支配力に優れていることです。価格支配力とは、低価格という意味ではなく顧客が納得して支払う価格の提示ができることです。顧客にとっては、よいモノができるだけ安く入手できればよい訳ですが、メーカーや流通は安過ぎると儲からなくなるため取り扱いを辞めることになります。つまり、適正な利益が得られる価格が維持することが重要となります。昨今は、人件費や物流費が高騰し、米中間の貿易戦争に拠る影響を受けて製造原価を安定して抑えることが難しくなっています。経営と製造現場が、これまで以上に密接となり厳しい局面に立ち向かう取り組みが必要不可欠です。

デジタル化で経営と製造現場をつなぐ仕組みを考える

 スマートファクトリーを実現する製造オペレーション管理の標準化(ISA-95)については国際規格(IEC62264)で、「生産」「在庫」「品質」「保全」などの基本的オペレーション管理が定義されています。この製造現場のオペレーションを管理するシステムは、MES:製造実行システム(Manufacturing Execution System)と呼ばれていますが、これまでは製造する製品や内容によって管理項目がバラバラでした。近年このMESの管理指標(KPI)の国際規格(ISO22400)が策定され、「効率」「品質」「能力」「環境」「在庫」「保全」の6つ領域、35項目の定義がMESの管理指標として整理されました。

(図表5:製造オペレーション管理、ISO22400の管理指標35項目)

図表5:製造オペレーション管理、ISO22400の管理指標35項目

 MESは、製造設備や機器など(SCADA/PLC/DCS)生産ラインのデータとERPなど経営システムを仲介する位置にありますが、これまでは管理指標が整理されていないことや組立加工系とプロセス系で管理内容が異なることなどから、MESの役割は限定的でした。MES導入は高額で時間も手間もかかることから、欧米企業に比べて国内での導入は低い状況です。大手企業では、製造現場のシステム化や自動化が進んでいることからMES導入に積極的に取り組む企業が急増しています。しかし、中堅中小企業ではシステム要員不足や導入コストなどが理由で、MES導入はほとんど普及していません。スマートファクトリーの実現には、工場間・工程間のデータ連携が必須となりますが、このままでは中堅中小企業は従来のExcelや紙の情報を手入力でメールやウェブに入力するやり方を変えられず、データ連携共有が大前提となるスマートファクトリーから取り残されてしまう懸念があります。理想は、最低限のシステム(ERPとMES)を導入してスマートファクトリーを実現し、国内外の工場間で相互にデータ連携ができる最低限仕組みを備えることです。日本の現場管理レベルは高いため、収集できるデータの質/量/粒度は世界トップレベルであり、このデータを最大限活用できれば競争力を維持できると信じています。

【ユースケース】製造現場のIoT導入による計画と実績の分析数値にもとづいた現場改善

生産現場のIoT化やDXに取り組まれた事例・ユースケースをご紹介します。生産性向上やコスト削減のヒントとしてご活用ください。

【ユースケース】製造現場のIoT導入による計画と実績の分析数値にもとづいた現場改善
ダウンロード
NEXT「ERP+MES、経営と製造現場をつなぐERPとMESの位置関係」
  1. 1
  2. 2
IoTユースケースをプレゼント
IoTユースケースをプレゼント
資料を貰う

おすすめコンテンツ

“失敗しない、止まらない”IoTプロジェクトの処方箋

なぜほとんどのIoTプロジェクトは途中で止まってしまうのかについて事例をもとに説明します。

データ流通時代の現状:あたりまえの実現が王道

データ利活用の現状と「当たり前」による劇的な改善についてご説明します。

スマートマニュファクチャリングソリューション コンテンツ一覧

関連商品・キーワード