スマートマニュファクチャリングソリューション

コラム「いまさら聞けないPLM入門」
~ 導入推進の最前線から ~

第3回 基本中の基本「製品データ管理」②

執筆者情報

岸野 和郎(きしの かずお)
  • 株式会社南国ソフト 新規事業部長

自動車メーカでボディー設計者として技術者としてのキャリアを開始したのち、CADベンダーにてコンサルタントとして多数の製造業のお客さまでのCAD/PLM導入および業務改革プロジェクトを支援。2004年からトヨタ自動車に転籍しエンジン開発部門での内製CAD/PLMから市販システムへの移行およびそれに伴う設計プロセス改革を担当。その後MBDなどのデジタル技術を活用した車両開発全般のデジタル化プロジェクトを推進。2022年より現職。これまでの経験を生かし、お客さまでの業務改革・プロセス改革に関わるプロジェクトを支援中。

先回はPLMを活用していくうえでの基本中の基本とも言える「製品データ管理」についてお話ししました。この製品データのマスター管理は今後PLMの活用範囲を広げていくうえで、とても重要なテーマですので、部品表や出図と絡めて今回もう少し掘り下げてお話したいと思います。

正直なところ、地味なテーマなのですが、これができていないと「部品表連携」も「データ一気通貫」も「CAE活用」もうまく進まないので、もう1回だけお付き合いください。

この図面に該当するCADデータはどれだ?

ほとんどの製造業では、いままでは紙図面が唯一のマスター情報だったという状態からCADデータもマスターとして扱われるようになってきています。

さて、皆さまの会社では図面(本コラムで使う「図面」という言葉は、それが紙なのか2D-CADデータなのかデータ形式は問いません。2次元で製品形状や材質などの情報を記載しているもの、という定義です)はいまだ存在しているでしょうか?昨今は欧米や日本の標準団体により3D図面規格が制定されていますが、先進的な会社でも一部部品でのみ採用という状況で、実態としては図面という2次元での製品情報表現がまだまだ主流ですよね。

ということで、今回はその図面と先回お話した製品マスターCADデータとの関係について紹介していきます。

図面とCADデータが連携していると…

いまや図面もCADで描くことが当たり前で、その2Dデータは形状の3Dデータと同様にPLMで管理されているかと思います。にもかかわらず、出図された図面については従来から存在している別の図面管理システムで格納されていることが少なくありません。なぜなら多くの図面管理システムは図面管理を行うだけでなく部品調達や購買機能などを有しているため、そちらで図面を管理しないと仕事が回らないからです。

結果、製品データと”正式な”出図された図面は、別々のシステムで管理されているため、お互いのデータ同士は当然紐づいていません。そうなると

- 図面だけ修正して、CADデータは修正されていない

- 設変していないのに、CADデータだけ形状が変わっている

といったことが起こってしまい、せっかく製品データ管理をしていても、それを信じて仕事を進めていいかわからないという状態になります。ものづくりの工程にも大きな影響を及ぼしてしまいます。

逆に、これらが連携して正式な出図図面に対応した製品データが誰でも間違うことなく判別できるという状態になれば、調達や生産準備などの仕事が製品データをマスターと信じて回せるようになります。

図面とCADデータを関連付けるには

図面と製品CADデータを関連付けるためには、究極的には製品データ管理システムであるPLMと図面管理システムとをシステム的に連携させるか統合してしまうのが理想的に思われます。しかしながら、図面管理システムあるいは調達システムなどの基幹システムを改修することは、技術的なハードルや改修コストの問題などがあり難しいのが現実で、PLMとのシステムな統合を進めるのは困難な場合がほとんどです。

ですので、ここではまずはアナログな方法で図面と製品CADデータを関連付けることをお勧めします。これは私が在籍していた会社でも実際に運用されていたやり方になります。単純ではありますが、効果的な手段なので、そのやり方を紹介したいと思います。ただし、これらは先回にも紹介した「製品データ管理」ができていることが前提となります。

1)CADデータに該当図面情報を持たせる

- 図面番号や部品番号、あるいは設変番号など、図面にはその図面がユニークとなるような情報を持っています。その情報をCADデータにも持たせます。ファイル名ではなくPLMの機能を使いファイル属性として持たせるのが望ましいです。

2)図面に該当CADデータのファイル名を記述する

- 図面の表題欄あるいは表題欄の近くに該当するCADデータ名を記載する欄を用意します

- そこにCADデータファイル名を記載します

3)出図後の図面およびCADデータの変更ルールを決める

- 原則は、図面とCADデータはセットで改訂するというルールにします

- 一方で、形状CADデータには影響を与えないちょっとした図面上の注記修正などのケースでは図面のみの修正を許すなど、お互いの整合性が崩れない範囲でルールを微調整します

4)製品CADデータも承認対象にする

- 図面に対応する製品CADデータは電子承認を行い、変更できないようにします。ほとんどのPLMシステムは承認機能を有していますので、それらを活用して電子承認します

- 図面を承認する権限のある方がPLM上で電子承認をするのが理想ですが、現実として図面を承認する方々はCADやPLMが使えないというケースもあるかと思いますので、その場合は紙図面に承認が入ったら第三者がPLM上で代行電子承認を行うという運用でも差し支えありません

- 基本これだけです。どうでしょうか。これくらいならシステム改修などしなくても、すぐにできそうですよね。

製品データ管理と図面の連携こそがPLM活用の土台

2回に渡って、PLM活用の基本中の基本である「製品データ管理」について紹介しました。

これらはあまりにも初歩的で地味な取組なため、あまり取り上げられることがありません。しかしこれらができていない状態で、いきなり「部品表連携」や「調達や製造、サービスまでデータを活用」という取組をしても躓きます。

ですので、PLMシステムを導入したけど、何から始めたらいいのか?と迷われているならば、まずこの「製品データ管理」から取り組んでみてください。製品CADデータのマスター管理ができたら、そのCADデータに関連する設計書などのPDFやエクセルデータを紐づけていくというのも次のよいステップだと思います。

製品データ管理は取組当初は成果も出しにくく、推進していくのは大変ですが、これを乗り越えれば、PLMで本当にやりたかったことの実現に確実に近づきますので、あせらず地道に愚直に一歩一歩進めましょう。

連載コラム「いまさら聞けないPLM入門」の第3回「基本中の基本「製品データ管理」②」は以上になります。地味ですが、PLM活用・DX推進には必須の取組なので是非まだの方は取り組んでみてください。次回は、この製品データ管理ができている前提で「部品表」についてお話しする予定です。

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