スマートマニュファクチャリングソリューション

コラム「いまさら聞けないPLM入門」
~ 導入推進の最前線から ~

第8回 PLMからはじめるデジタルトランスフォーメーション

執筆者情報

岸野 和郎(きしの かずお)
  • 株式会社南国ソフト 新規事業部長

自動車メーカでボディー設計者として技術者としてのキャリアを開始したのち、CADベンダーにてコンサルタントとして多数の製造業のお客さまでのCAD/PLM導入および業務改革プロジェクトを支援。2004年からトヨタ自動車に転籍しエンジン開発部門での内製CAD/PLMから市販システムへの移行およびそれに伴う設計プロセス改革を担当。その後MBDなどのデジタル技術を活用した車両開発全般のデジタル化プロジェクトを推進。2022年より現職。これまでの経験を生かし、お客さまでの業務改革・プロセス改革に関わるプロジェクトを支援中。

さてこの「いまさら聞けないPLM入門」コラム連載もいよいよ最終回となりました。ですので今回はこれまでのコラムの総仕上げとしてPLMを起点としたデジタルフォーメーション(DX)を実現するためにどうしたらよいか?について考えていきたいと思います。

PLM導入はDXなのか?

「PLMとDX」イメージ

「わが社もDXに取り組まなければならい」。昨今このような声をよく聞きます。そのようなトレンドのなかで、PLMシステムを導入しようとすると、「それでDXできるのか?」と問われてしまうこともあるのではないでしょうか?今はDXにつながるものでないと新しいシステム・ツールへの社内決裁が取りづらくなっている状況ではないかと思います。

もちろんDXはデジタル技術を使って業務そのものを変革しようという取組みですから、PLMに限らずどんなシステム・ツールもただ単に購入するだけではDX実現とはなりません。というより、購入しただけでDXが実現してしまう魔法のシステム・ツールは存在しませんよね。

しかしながら、デジタル技術によるDXを実現するにはPLMを始めとするデータ管理・活用基盤の構築は必要条件です。最新の正しいデータに誰もがアクセスできるからこそ、データを活用した諸施策が実行可能になるからです。ですので、PLM導入を社内推進していくうえでは、PLMツール単独の施策ではなくPLMツールで構築するデータ一気通貫基盤を使って試作レスなどの業務変革施策を実現するのだ、といった言い方をしていく必要があると考えます。

実現したい世界を描こう

そのためには、まず自分たちが実現したい世界・めざす姿を絵におこすことから始めるとよいと思います。絵におこすというのは比喩表現ではなく、本当に絵を描くのです。動画だとさらによいです。

これから推進していくPLMを活用した取組みは、数年かかることもありますし、多くの人たちを巻き込んでいくことになります。そのようなときに、我々が実現したいことはこういうことなのだ、をわかりやすく伝えられるようにしておくことは非常に重要です。また各論に入っていくと、社内の反対や技術的な困難にまず間違いなく遭遇します。そんなときにも、自分たちの拠り所となるものが明確にしておくとブレることなく進むことができるでしょう。

大きな絵を描いたら、それをもとにジャーニーマップを作ってみるのも有効です。ジャーニーマップは一般的にはマーケティングなどで利用されることが多いですが、その主旨は「利用者目線に立った体験整理」ですからDXが実現した暁には皆さんの仕事・行動がこう変わりますよ、を整理するよい手法となります。

ジャーニーマップをもとにあらかじめ対象となるユーザーとめざす姿が実現したときあなたの働き方が具体的にどう変わるか?について議論しておけば、実際に展開する段階での認識の相違を減らすことができます。

「ジャーニーマップ」イメージ

一緒に推進する仲間をつくろう

前述したとおり、PLMを活用した取組みは数年かかることもありますし、多くの人たちを巻き込んでいくことになります。ですので取組み全体をけん引していく推進体制が必要になります。しかし体制作りは実にやっかいなものです。次に紹介する「横・縦・外」を意識して慎重に体制作りを進めていきましょう。

1. 横(しかし少数精鋭で)

IT部門だけ、設計部門だけ、で推進開始するパターンもあるかと思いますが、初めから関係部署メンバーを仲間に引き入れておきたいですね。ここで大事なのはありとあらゆる部門から広く浅くメンバーを集めてしまわないこと、です。関係部署は巻き込みたいのですが、すべての部署に熱い想いを持った人がいるとは限りません。特に活動当初はキーとなる部署の熱量の高い人・理念に共感してくれる人に絞って仲間づくりを進めるのがよいと思います。そうでない人たちが多い推進組織だと、議論ばかりで話が前に進まなくなる傾向が強くなります。

2. 縦

取組み中では、多額の投資決裁や部署間の利害関係調整など、担当者レベルでは解決しがたい問題が出てきます。そのためこの体制のトップには役員クラスの人を据えましょう。ITに明るい人と現場に明るい人を揃えられるのがベストです。彼らには、名前を借りるだけでなく、適切なタイミングで報告・アドバイスをいただく場をセットして、自分のプロジェクトとしてあらゆる場面で気にかけてもらえるようにします。

そうなると活動自体への社内認知度も大きく上がりますし、あの人が推進しているのなら、ということで関係部署の協力を得やすくなると思います。

3. 外

システム面を考えると、このPLMの取組みは実は単一のPLMシステムでは実現できず、社内の既存システム、新しく導入・開発するPLM以外のシステムとの連携が必要になります。ですので、社内のIT部門はもとより、社外のシステムベンダー、Sierさんなどにも協力してもらえる体制を作りましょう。当事者意識を持ってもらえるよう担当範囲や期待することを明確にし、活動全体のキックオフやレビューなどにも参加してもらうようにするとよい関係が構築しやすいと思います。

また、取組み中にもデジタル技術やトレンドあるいは競合他社の取組み状況はどんどん変わっていきますから、そういった最新情報のキャッチアップも必要になります。そこでも社外の人の力を最大限活用させてもらいましょう。わたしも、ベンダーさんに最新技術動向を教えていただいたり、情報交換と称して競合他社と意見交換の場をセットしていただいたりしたことがあります。そこで得た情報は取組みの方向性や加速においてとても有益なものでした。

PLMからはじめるデジタルトランスフォーメーション

いかがでしたか。製造業でのデジタル技術によるDXを実現するにはPLMシステムによるデータ管理・活用基盤の構築は必要条件かと思います。しかしながら、まだ多くの会社がPLMシステムの定着に苦労している実態が示す通り、その実現は一筋縄ではいきません。

時間はかかるかもしれませんが、理想の実現に向けて少しずつでも着実に前進していくしか方法はありません。一つひとつの取組みは今回のコラムで紹介したように、地味で泥臭いのが現実です。一人だとくじけてしまうので、心強い仲間を作りチームとしてデジタルトランスフォーメーションに向けて取組んでいただけるとよいなと思います。


連載コラム「いまさら聞けないPLM入門」の第8回「PLMからはじめるデジタルトランスフォーメーション」は以上になります。これまで全8回に渡るコラムにお付き合いいただきありがとうございました。泥臭い話ばかりで物足りなかったかもしれませんが、これがリアルに私が経験してきたことの一部です。少しでも皆様の取組み・活動のお役に立てれば幸いです。また機会ありましたらどこかでお会いしましょう。

ご清覧ありがとうございました。

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