スマートマニファクチャリングソリューション

成功につながるPoCの取り組み方、リスクを回避するオープンクローズ戦略

連載『“失敗しない、止まらない”IoTプロジェクトの処方箋』#03

オープンクローズの境界線を引いてから展開する

 自社が強みを持つ領域は、オープンクローズ戦略のクローズ(内製化)とオープン(外注や委託)する境界線を決めるテーマの中心ですから社内外の利害関係を十二分に把握しておかないと抵抗勢力が生まれます。

PoCが横展開できない理由には、現状を変えたくないという変化に対する恐れと横展開することで見せたくないノウハウが流出してしまうという懸念によるものです。守るべき領域と開示すべき領域を明確に線引きしてから、展開するという手間をかける必要があります。これを怠ると、社外にオープンクローズ戦略を展開するときに、なし崩しにノウハウが流出したり統制が取れなくなったりします。

特にIoTプロジェクトでは、これまでの仕事のやり方が大きく変わる可能性が高いため設備やデータの取り扱いが難しくなります。利害関係が対立する場合を想定して、お客さま目線であるべき姿を判断して決めなければなりません。自社の強みをクローズして勝負するからこそ、優位性を維持しながら今の強みを更に強化できます。

すべて自前主義では、時間もお金もかかりますが、限られたリソースを集中投資して他社と協力してソリューションを生み出し、そのIoT効果をお客さまへ提供してさらに顧客ベースを拡大するという戦略を立てるには有効な手段だと思います。


 「設備機器やセンサーでデータを収集するのは、お客さまサービスを良くするため。」「ソフトウェアやシステムを作るのは、属人化を廃してサービス品質を高めるとともにお客さまごとに異なるニーズに対応するため。」「自社製品のみならず他社製品や古い製品にも対応するのは、他社製品からの買い替えを促すとともにサービス提供で主導権を握るため。」「異業種と組むのは、共通のお客さまに対してワンストップで製品とサービスを提供するため。」「海外企業と協業するのは、市場開拓と新しいビジネスチャンスを広げるため。」などと言うように、シナリオを複数準備します。未来のことはその時になってみなければわかりませんが、スピードが勝敗を決めるIoTプロジェクトの場合、『進む/止める』のどちらかの選択肢しかありません。『様子を見る(判断の先送り)』は、優位性を削ぐことになるので実質的にIoTプロジェクトを『止める』のと同じ意味合いになってしまいます。オープンクローズ戦略は、自社の強みにリソースを集中するとともにスピードアップするための手法でもあります。


 欧米企業のケースでは、新規ビジネスの立ち上げは3年間が1つの目安となっています。これは、製品やサービスが市場投入されるまでの時間なのでプロジェクトの成否評価はその2年後くらいで行います。つまり、1サイクル約5年間となります。最低でも5年間は、IoTプロジェクトを継続する覚悟が必要となります。

先行事例を見てみると、コマツが盗難防止用に建設機械に遠隔操作でエンジンカットする仕組みを組み込んだのが、1999年ごろでビジネス化をめざしてから10年近く経っています。シーメンス社が、ソフトウェアビジネスをめざすと宣言して、事業再編とソフトウェア会社などのM&A(企業買収)を始めてからすでに10年経っています。

このように、大企業の構造改革とビジネスモデル変革には長い時間がかかっていますから現実には、5年から10年という時間が必要だということがわかります。上手くやれば、2巡目が廻せます。M&Aはスピードアップの手段の1つですが、最近では技術提携などアライアンスを組むやり方も増えています。いずれにしても、井の中の蛙にならないように社外や海外など幅広い情報や人脈を持つことが重要となっています。

まとめ

 今回はオープンクローズ戦略を軸としたIoTプロジェクトについてご紹介しましたが、欧米のオープンクローズ戦略に、日本人が得意とするブロック工法というやり方をくわえて取り組むことを考えました。かつて大日本帝国が、海軍力強化のために戦艦大和(大和型)をわずか4年間(1937年11月起工、1941年12月就役)したときに生み出した工法です。従来工法では、5から10年はかかると言われた戦艦建造を、ブロックごとに作ってつなぎ合わせるという技術で実現しています。日本の製造業が戦後高度成長を実現した背景には、こうした高度な技術の裏付けがありました。今再びこの手法を使って、遅れを取っているIoTプロジェクトを『日本流のオープンクローズ戦略』で加速することができるのではないかと考えています。

さて、次回最終回は、IoTプロジェクトの進め方について、ケーススタディ風にできるだけ具体的に筆者が取り組んでいるユースケースをわかりやすくご紹介したいと思います。

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