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データ流通時代の現状:あたりまえの実現が王道

連載『データ流通時代の日本の商機』#01

データ流通時代の現状:あたりまえの実現が王道

執筆者情報

越塚 登
  • 東京大学大学院
  • 大学院情報学環 副学環長、教授
 専門は計算機科学(Computer Science)。特に、Ubiquitous ComputingやIoT(Internet of Things)やLinked Open Data、Operating System、Computer Network、Human Computer Interfaceなどの研究に取り組んできた。近年は社会基盤としての情報システムに関心を持つ。具体的には、汎用識別子ucodeを核としたユビキタスIDアーキテクチャの研究・開発・普及の活動を中心として、場所情報サービス、食品・製品のトレーサビリティ、スマートビル・スマートシティ、ICTを用いた社会インフラ運用の高度化などにも取り組んでいる。また、オープンデータに関する取組として、公共交通オープデータやオープンデータテストベッドの活動を推進している。  現在、東京大学大学院情報学環・副学環長・教授、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所副所長、トロンフォーラム、公共交通オープンデータ協議会、一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構 理事、IoT推進コンソーシアム運営委員、スマートIoT推進フォーラム委員、札幌オープンデータ協議会会長、気象ビジネス推進コンソーシアム会長、高知県IoT推進アドバイザといった活動を手がけ、電子行政オープンデータ実務者会合, 公開支援ワーキング・グループ 主査、内閣官房オープンデータ伝道師、総務省 情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT政策部会構成員、国土交通省社会資本整備委員会・交通政策審議会技術部会・気象分科会 各委員などの政府委員を歴任。

「今、岐路に立っている〟という意識」

 世の中では、ビッグデータ、オープンデータ、IoT、AI、情報銀行といったものを用いたイノベーションに対する高い期待があり、日本政府や経団連でもSociety 5.0、第四次産業革命などが掲げられています。しかしながら、現実のビジネスに近い視点からは、「産業界でデータの利活用が進まない」、「国際格差は開くばかり」、「IoTやAIは本当に儲かるのか?」といった問題提起がなされています。しかし、これは今日明日のビジネスの話ではなく、実はもっと重要なことが起こっているのではないか、というのが現在の私の思いです。つまり、今われわれは、「歴史的な地点に立っている」、「産業や社会のあり方を根本的に変える岐路に立っている」いうことです。

データ利活用の現状

 データの利活用の動きは、ここ1年くらいでも活発に進展しています。まず産業データに共有や流通に関して、日本版Industrie 4.0がめざされ、データ利活用の方法も、(1)予測分析や予測メンテナンスのためにプレーヤー間でデータを共有するもの、(2)品質保証のためのトレーサビリティ、(3)マーケティング情報やユーザー情報のフィードバックなど、サプライチェーンの「縦方向」のデータの共有、(4)同じ業種間の横方向のナレッジシェア、(5)製造装置のオペレーションのためのデータのシェア、などさまざまなものが出てきています(※1)。

 産業データ以外にもう一つ重要なデータが、パーソナルデータです。パーソナルデータの利活用により、個人に最適化したさまざまな柔軟なサービスが、医療、健康、教育、観光、金融、福祉、行政といった分野で期待されています。そして、その適正な利活用のために、3つのアプローチが検討されています。まず「パーソナルデータストア(PDS)」は、パーソナルデータは個人のものであり、その個人が自身のパーソナルデータをコントロールできる環境を整えよう、という取り組みです。国内では例えば、総務省が観光分野のPDSとして、「おもてなしクラウド」に取り組んでいます。インバウンドで来られた海外からの観光客の方の回遊性を向上させることをめざしています(※2)。

※1経団連21世紀政策研究所 研究プロジェクト「データ利活用と産業化」報告書, 2018年5月
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/180531.pdf
※2総務省 2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/2020_ict_kondankai/index.html

 個人が自分のパーソナルデータを管理する手間を軽減するために、パーソナルデータを信頼できる第三者に預託する仕組みが「情報銀行」です。また、データが流通する場としての「データ取引市場」も検討されています。

 更に、国・政府自治体などの公的機関は保有する公共性の高いデータは、オープンデータとしての提供が一般的になってきました。日本政府の提供するデータは約2万点になり(※3)、現在は1,788ある国内の全地方公共団体がオープンデータを提供することがめざされています。また、公共交通データなどは大変公共性の高いデータですが、日本では主に民間企業が担っており、そのオープンデータ化の取組みも進められています(※4)。

「当たり前」による劇的な改善

 先ほど、「歴史的」と仰々しく述べてみましたが、現実は意外と「あたりまえ」ができていません。高度なデータ科学に基づいた改善・改革ではなく、そのようなことは「あたりまえ」、と思われるところにポイントがあると思います。

 例えば、気象のデータは、気象条件に大きく左右される農業・漁業で利用することは、「あたりまえ」のようですが、先進的な一部を除き、あまり利用されていません。また自動車保険で、ドライバーの運転データを使うことは、少し考えれば「あたりまえ」のようですが、これも一般的には取り組まれていません。工場でも、中小零細規模になると、遠隔監視などもあまりなされず、つきっきりでオペレーションしています。これらの例に限らず、あらゆる分野で「あたりまえ」ができていないことを強く感じます。逆にいえば、「あたりまえ」をやることで、劇的に改善する可能性がまだ残されています。最も簡単なデータ利活用手法である、単なる遠隔制御・遠隔監視、つまり単なる「データの見える化」だけで、劇的に改善する、それが現実です。この、「あたりまえ」の実現が実はデータ利活用の王道です。

 これらには共通点があって、常識的に考えればあたりまえでも、いざそれを実現しようと思うと、その「あたりまえなデータ」の取得に多くのコストがかかり、改善メリットに対して経済的にペイしないのです。ところが、IoTの進展により、データ取得が低コスト化され、AIの進展により分析・解析も低コスト化され、これまでできなかった「あたりまえ」がコスト的に見合うようになるのです。したがって、データの利活用の第一歩は、高度で難しいことではなく、残された「あたりまえ」を探してみることにある気がしています。

 その改善できる「当たり前」が見つかったらどうしたらよいか?それは次号のテーマとしたいと思います。

※3日本政府のデータカタログサイト
https://www.data.go.jp/
※4公共交通オープンデータ協議会
https://www.odpt.org/

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