スマートマニュファクチャリングソリューション

コラム「いまさら聞けないPLM入門」
~ 導入推進の最前線から ~

第1回 そもそもPLMって何だっけ?

執筆者情報

岸野 和郎(きしの かずお)
  • 株式会社南国ソフト 新規事業部長

自動車メーカでボディー設計者として技術者としてのキャリアを開始したのち、CADベンダーにてコンサルタントとして多数の製造業のお客さまでのCAD/PLM導入および業務改革プロジェクトを支援。2004年からトヨタ自動車に転籍しエンジン開発部門での内製CAD/PLMから市販システムへの移行およびそれに伴う設計プロセス改革を担当。その後MBDなどのデジタル技術を活用した車両開発全般のデジタル化プロジェクトを推進。2022年より現職。これまでの経験を生かし、お客さまでの業務改革・プロセス改革に関わるプロジェクトを支援中。

そもそもPLMって何だっけ?

皆さま、はじめまして。株式会社南国ソフトの岸野と申します。最初に簡単な自己紹介をさせてください。わたしは通算して25年以上CAD・PLMに利用する・売り込む・導入推進すると立場を変えて携わってきました。そこで得た経験などを「いまさら聞けないPLM入門」と題したコラムとしてお伝えしていきたいと思います。よろしくお願いします。

この数年でDXという言葉がすっかり市民権を得て耳にしない日はないという状況になりました。その流れを受け、DXが流行るずっと前からCAD・PLMなどのデジタル化に取り組んできた皆さまにも、より高度なデジタル化推進の指令が下りてきているのではないでしょうか。

このコラムではPLMというコンセプトについて改めて考え直し、今以上にCAD・PLMを活用するためにどうしたよいのか?について、わたしの実経験などを交えてより具体的・実践的な内容を連載形式でご紹介していきます。

なにか特定のCAD・PLMシステムを取り上げて機能紹介をするのではなく、皆さまがどんなシステムをお使いであっても共通して考慮したほうがいいことや遭遇するであろう課題などについて掘り下げていきます。本連載コラムが皆さまのPLM推進・DX活動推進のお役に立てれば幸いです。

PLMを入れて効果は出ているのか?

「年間〇万円相当の費用削減効果があります」などとぶち上げて社内決裁を取りシステム導入したものの、導入後に実際にその効果を正しく測定するのは難しくて「PLM導入の効果を示せ」という要求への返答に苦慮している方も多いのではないでしょうか?

わたし自身も導入したあとの投資に対する効果フォローへの対応は苦手で、いつも効果の定義や測定に悩んでいました。

PLMコラムを開始するにあたり、まずはその狙いや効果をどう考えるべきかについて考えていきたいと思います。

「投資対効果」、「効果の刈り取り」などのイメージ

なぜ効果を言いにくいのか?

なぜ効果が示しにくいのでしょうか?

わたし自身の反省点として思い当たる一番の要因は導入当初の見込み効果の設定が粗すぎたということです。「設計効率30%向上するので、年間の設計工数がこれだけ減るのでその費用換算分のコストが浮きます」というようなロジックで見込み効果を出してしまうと、効果検証するときに設計効率って何なんだ!?という議論になってしまいます。

もう一つの大きな要因は、それら効果に対する受益部署との握りが不十分だということです。受益部署とはPLMを導入することで、実際に効果を享受する部署・あるいは効果をうみ出してくれる部署のことです。例えば設計効率化なら設計者工数削減や試作費用削減が見込めますので、受益部門は設計部門ということになります。

ある程度の会社規模になると導入推進する部署が稟議決裁を取得し受益部署へ仕組みやシステムを提供するというスタイルが一般的かと思われます。このように推進部署と受益部署が異なる場合には、両者での効果に対する握りが曖昧になりがちです。

いざ効果検証の際に導入推進部署が目標達成しましたと宣言しようとすると、受益部署である設計部門の方にとってはそれを認めてしまうと「人が減らされるんじゃないか?」、「もっと多くのプロジェクトを詰め込まれるのではないか?」と警戒心が出てしまいます。こういった事態を避けるには、はじめから設計効率はどのように測定するのか?もし効率化できたとしてその浮いた工数をどう活用するのか?などについて膝を突き合わせて本音で議論して合意しておくことが重要になってきます。

そこまで議論できると、設計プロセス中の何をどう変えていくのか?のブレークダウンも進めやすくなります。

そもそも何のためにPLMを導入したのだろうか?

これからPLMシステムを導入しよう、あるいはすでに導入済みのPLMシステムを活用していこうと考えるときに、「どのシステムにしようか?」などのツール選定や解決策を考える前に「そもそも自分たちはPLMを導入して何を実現したいのか?」を考えることが必要です。

一般的に以下のようなものがPLMを導入する目的としてあげられます。

- 製品のCADデータのマスター管理をしっかりやりたい

- 社内外のチームが共同作業できるようにしたい

- 既存の部品表システムと連携させたい

- 工場ラインのデジタル化を推進したい

これらはどれも真っ当なものですが、このレベル感ではなにがどういう状態になったらうまく導入できたのか?効果が出たと言えるのか?が曖昧なままです。もう一歩踏み込んで「なぜその施策をやるのか?」を考える必要があります。また同時に「実現したいこと・解決したいことは何か」も明確にします。

そこまで定義できると客観的・定量的に測定できる目標数値の設定がやりやすくなります。なお目標数値を設定するときはその測定方法とセットで考えるようにしましょう。

そうして決めた施策や目標数値を導入部署と受益部署とで合意形成をしておくことが極めて重要です。これこそがPLMを導入する理由となります。

先ほどの設計効率向上という目標を例に少し具体的に考えてみましょう。

設計効率という言葉をどう定義するかが最初に検討するべきことです。この例のなかでは開発プロセスを見直して試作回数を減らすこと、それにより設計期間を短くすること、と置いてみましょう。その次にやるべきことは、現状の試作品の発注タイミングや数あるいは費用を正しく把握することです。管理部署に掛け合い、これらの最新情報を常に入手できるようにしておくことも重要です。

その次に、試作品の利用用途を理解したうえで、どうやったら試作プロセスを削減できるのかを検討します。最初の試作をCAEやより安価な3Dプリント品に置き換えてバーチャル化し、実機が必要な検証を別の試作プロセスに固めてしまう、ことなどが具体的な施策となります。

ここまで考えておけば、具体的な目標設定とその定量計測がやりやすくなります。そうすると、効果検証の際に効果確認だけでなく、何がうまくいったのか・いかなかったのかなどを客観的に評価でき、次のアクションプランにつなげやすくなります。

「ゴール達成」、「目標達成」などのイメージ

最後に、目標を達成したとしたときに得うる利益をどう使うのか?まで考えておきたいところです。設計効率が上がったら「開発期間を短くする」のか「開発期間はそのままに日々の残業ゼロにします」なのか、「設計部署の要員を別の部門にシフトします」なのか、というようなことです。

「製品のCADデータのマスター管理をしっかりやれた」、「社内外のチームが共同作業できるようになった」などの成功の暁には私たちはどうなるの?を関係者全員が共通認識できていると、PLM導入がずっとやりやすくなります。

自分たちなりのPLMを定義する

世の中にはPLMの定義があふれています。「製品の企画から製造・販売まですべてのデータを管理して有機的に活用すべき!」などと言われても何から手をつけていいのかわかりません。そういった誰かが考えた定義は一旦頭の片隅に追いやって、自分たちの設計開発業務・生産準備業務などをどうしたいのか?解決したいことは何なのか?をまずはじっくり考えてみましょう。

そしてそのために必要な解決策を考える段階ではじめてPLMを使う必要があるのかどうかが見えてきます。PLMで何ができるのか?他社はどう使っているのか?はこの解決策をひねり出す段階に役立つ情報となりますが、はじめはなるべくニュートラルに「自分たちの課題を解決する」、「実現したい将来像にたどり着く」にはどうしたらよいのか?からアプローチしてみてはいかがでしょうか。

連載コラム「いまさら聞けないPLM入門」の第1回「そもそもPLMって何だっけ?」は以上になります。PLMという概念から考えるのではなく、現状課題解決や自分たちの考える将来像実現のために何をするべきか?から考えてPLMというソリューションにたどり着くのが理想的です。

次回から数回に分けて、そのPLMを用いてよく取り組まれるテーマについて具体例も交えながら紹介していきたいと思います。

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