日立ソリューションズは、社会生活や企業活動を支えるソリューションを提供し、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。

AIの活用で、SXをさらに推し進める 日本とインドで挑む、「協創」と「実装」

企業活動のみならず、社会全体に大きな変革の波をもたらしつつある生成AI。日立ソリューションズでは、生成AIを起点としたAX(AI Transformation)を推進することで、その先にあるDX、そしてSXの実現に向けた取り組みを本格化しています。

AI利用の定着、インド海外法人との協創、そして社会課題の解決に向けた展望とは。日立ソリューションズグループでも切っての「AIの専門家」であるふたりに、その現在地と未来を聞きました。

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北林さん

株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部
AIトランスフォーメーション推進本部
AX戦略部
チーフAIビジネスストラテジスト
AIアンバサダー

北林 拓丈

入社後、Javaエンジニアとして20代で米国大手ベンダー製品開発研究所での業務研修を経験。その後、通信事業者向けシステム開発に従事後、ワークスタイル変革事業の企画・推進に携わる。2020年よりシリコンバレーにてスタートアップ連携活動に従事し生成AIの最新トレンドにも触れる。2024年より生成AIエバンジェリストとして社内外への情報発信を行っている。

Guganさん

株式会社日立ソリューションズ
経営戦略統括本部
グローバルビジネス推進本部
事業推進部
テクニカルアーキテクト

Gugan Kailasam

Hitachi Solutions India Pvt. Ltd.で、AIチームのリーダーとしてチーム全体の統括、プロジェクト管理、メンバー育成に従事。日本向け案件を多数担当し、従来型のAIから生成AIまで幅広い技術を活用。2024年より日本に出向しており、社内外へのAI提案・推進、インドと日本の橋渡し役を担い、技術支援やコンサルティングに従事。

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AIのグローバルトレンドから、 日本が取り残されないために

まずはおふたりのポジションと業務内容について教えてください。

北林:私は2020年から2023年にかけて米国シリコンバレーに駐在し、「ChatGPT」などの生成AIをテーマにスタートアップ企業を調査してきました。現在は、その知見を元に、AIエバンジェリストという肩書きで活動しています。たとえば、講演や記事の執筆、取材対応などを通じて、最新の技術動向や当社の取り組みを発信しています。社内向けにも、AIの利用促進を目的に、メルマガでの情報発信や、勉強会の開催に取り組んでいます。どちらの場合でも意識しているのは、グローバルトレンドを踏まえて、生成AIの「今」を伝えることです。

また最近では、「AIに興味はあるけれど、どう使えばいいかわからない」「AIを導入したけれども、利用が定着しない」というお客さまと、直接お話しをすることも増えてきました。まずは導入状況や課題感、ニーズを丁寧にヒアリングした上で、当社の取り組みやソリューションなどをご紹介しています。

Gugan:AI専門のテクニカルアーキテクトとして、お客さま向けのAIソリューションに関する提案支援などを担当しています。また、当社のインド海外法人であるHitachi Solutions India Pvt. Ltd.(以下、Hitachi Solutions India )との橋渡し役として、インドにおける研究開発活動の取り組みやこれまでのAIプロジェクトの実績、AIエンジニアのスキルセットといった情報を、日本側に共有することも私の役割です。こうした知見を生かし、技術的なアドバイスやソリューションについてのコンサルティングも手がけています。

そもそも、生成AIに関心を持つようになったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

北林:米国シリコンバレーでの経験が大きいですね。現地では、スタートアップとのパートナーシップ構築や、日系企業間連携による新規事業の立ち上げなどに従事していました。その一環として、渡米当初からOpen AI社の大規模言語モデル「GPT」の動向を注視していましたが、やはり衝撃的だったのは、2022年にリリースされた「ChatGPT」です。

生成AIを誰もが気軽に使えるようになったことで、「これは世の中が変わる」と確信しました。それ以降は、生成AIをシリコンバレーでの最重点調査テーマとして位置づけ、そこで得た知見が現在の活動のベースにもなっています。

Gugan:私はインドで、従来の機械学習やディープラーニングなどに携わっていたのですが、やはり「GPT‑3.5」の登場は衝撃でした。生成AIのアルゴリズム自体はある程度理解していたつもりですが、それでも「GPT‑3.5」の出力の精度には驚かされました。「どれだけ膨大な学習データと計算資源を投じれば、これだけの精度が可能になるのだろう」と考え込んでしまったほどです。

生成AIは今も目覚ましい進歩を続けていますが、
その最新トレンドをおふたりはどのように分析していますか?

北林:2025年は、まさに「AIエージェント元年」となるでしょう。単なる「チャット相手」ではなく、自律的にタスクを実行可能なAIエージェントが、いよいよ実用段階に入ってきました。実際に、マイクロソフト社やグーグル社といったメガベンダーや、OpenAI社をはじめとするLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を扱うベンダーも、こぞって新機能をリリースしています。その一方で、スタートアップは特定の事業ドメインに特化したソリューションの提供に舵を切ることで、大手との差別化を図っている印象です。

Gugan:生成AIのトレンドを主に生み出しているのは米国ですが、それを真っ先にキャッチアップしている国のひとつがインドです。実際、大手企業では業務最適化にAIを本格的に導入しはじめていて、AI人財への投資も加速しています。なかには、全従業員にAIスキルを習得させるような会社もあるほどです。その点、日本とはAIへの取り組みに、明確な温度差があると感じています。

北林:ちょうど先日、生成AI関連のパネルディスカッションを聴講したのですが、そこでも国内の有識者のみなさんは、慎重論を唱える人が多かったですね。AIを活用するにしても、ガバナンスとのバランスが大事なのだ、と。それ自体はまっとうな指摘ですが、「今はブレーキを踏むときではない」というのが、私の率直な実感です。もっと大胆にAI活用を進めなければ、日本が世界から取り残されてしまう。そんな強い危機感を覚えています。

Gugan:日本企業は、どうしても品質を重視しすぎる傾向があると感じています。しかし、どんなに高性能なAIでも、その回答の精度が常に100%であることはなく、ときには誤りが含まれることもあります。むしろそうした可能性を前提に、その都度フィードバックを重ねていくことが、本来の向き合い方でしょう。そのようなスタンスを持つことで、AIの活用がより一層進む可能性があります。

北林さん

インドの協創も加速しながら、 AXによるSXを

日立ソリューションズでは、どのようにAIの活用を進めていますか?

北林:当社では「DX by AX Toward SX」というSXの実現に向けたビジョンを掲げています。AIによる業務変革を起点に、企業や社会のDXを加速し、最終的にはSXに貢献していこうという考え方です。そのようなSXの実現に向けて、現在、「ソリューション高度化」「開発業務効率化」「社内業務効率化」「リスク管理・ガバナンス」という4つの領域にフォーカスし、AIの活用を進めています。

もっとシンプルに言えば、「社内でAIをとにかく使うこと」が私たちの基本方針です。この1年でAIの社内利用率は急速に高まりましたが、まだまだ道半ばの状況です。最終的には、すべての従業員がAIを当たり前に活用している状態をめざしています。

Gugan: 私も最近は、提案業務の効率化のために、Copilot や社内向け AI チャットボットを活用しています。これによって、提案書や各種ドキュメントを少ない労力で作成でき、作業時間も大幅に短縮されました。実際の業務シーンでも、迅速かつ正確な対応ができるので非常に重宝しています。

開発においては、「GitHub Copilot」を使うことも多いですね。まだまだコーディングの精度は60〜70%というのが体感ですが、それでもさまざまなプロンプトを試しながら、トライ&エラーで開発プロセスに組み込んでいます。

Guganさん

北林:これはまだ試験的な取り組みなのですが、私が所属している組織の責任者の発言や振る舞いを学習させたAIも開発中です。「これはちょっと本人には言いづらいな」ということを、とりあえずAIに投げかけてみて、リアクションを見てみるなど、社内でAIを身近に感じてもらうための取り組みのひとつです。

Gugan:基本的なところでいうと、AIを活用することで文章の作成はすごく楽になりました。特に母語ではない日本語での文書作成は、どうしても時間がかかるのですが、AIのおかげで、その負荷が随分と軽減されています。実は今回の取材にあたって、事前にいただいた資料に対する回答も、AIを使いながら作成したものです。生成AIの登場以降、翻訳の精度も一気に高まったので、インドチームと日本チームのコミュニケーションもスムーズになった印象です。

Gugan さんをハブとして、AIに関するインドとの協創も進んでいるのでしょうか?

Gugan:そうですね。インドには優れたAIエンジニアが多いので、Hitachi Solutions Indiaと連携しながら、R&Dから技術調査、プロトタイピング、製品開発、技術サポートまで、幅広い支援を提供できる体制を整えています。たとえば私が支援している建設業向け生成AI活用ソリューションの開発プロジェクトでも、インドのエンジニアの力をお借りしています。

北林:技術力の高さはもちろんですが、AIの学習に必要なデータを素早く大量に集められることも、人口の多いインドならではの強みだと感じています。以前、Hitachi Solutions Indiaに試験データの収集を依頼した際も、何千人分ものデータを短期間で用意してくれました。こうしたスピード感とスケール感は、日本国内ではなかなか得がたいもので、あらためてインドとの協創の意義を実感しました。

人とAIの持続可能な共存を、 社会実装するために

今後、さらにAIを活用していくために、
どのような取り組みが必要だと考えていますか?

北林:やはりまずは、社内のAI利用率を100%まで高めていきたいですね。ソフトウェア開発やインフラ構築といった主力領域でも、プロジェクトのAI適用率が100%となることをめざしています。その上で、社内で培ったノウハウや知見を、ソリューションとしてお客さまに還元していく。そんな好循環をつくっていきたいですね。

とはいえ、「AIを使いましょう」と呼びかけるだけでは限界があります。大切なのは、従業員一人ひとりが「自分ごと」としてAIに向き合えるきっかけをつくることです。そこで今年度より、AIを活用した社内コンテストを実施しています。社内全体からAI活用のアイデアを募ったところ、なんと約1,100件のエントリーがありました。

北林さん
そうやってAXが実現した暁には、
私たちの社会にはどんな変化が訪れそうでしょうか?

北林:AIエージェントのさらに先にあるのは、ロボットや自動運転車など、現実世界の中でAIが機能する「フィジカルAI」の領域だと思います。これが本格的に実現すれば、人手不足をはじめとした社会課題に対する、抜本的な解決策にもなり得るでしょう。

その一方で、AIの普及とともに顕在化してくるのがセキュリティの問題です。AIには、ディープフェイクやハルシネーションなど、従来のITとは異なる新しいリスクが存在します。この分野こそ、セキュリティに強みを持つ当社が力を発揮できるところだと考えています。AIでAIの安全を守るセキュリティの発想も取り入れながら、誰もが安心してAIを使える社会づくりに貢献していきたいですね。

Gugan:個人的に注目しているのは、AIの教育分野への活用です。今、私は4歳になる子どもがいるのですが、「何を勉強させるべきか」「どうすれば効率的に学べるか」といったアドバイスを、日常的にAIに求めています。

私自身も、日本に来てから何か困りごとがあったときは、まずはAIに相談することがほとんどです。学びや暮らしを支える「生活インフラ」として、今後AIの存在感はさらに増していくでしょう。だからこそ、「AIに何ができるか」だけでなく、「私たちが本当に必要としていることは何か」という視点から、人間中心でAIを設計していくことが重要だと感じています。それこそが、人とAIが共存できる持続可能な社会の実現にもつながっていくはずです。

※AIが事実に基づかない情報や、実際には存在しない情報を生成する現象

Guganさん
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