DXを加速させるローコード開発とは?メリット、導入するステップを解説

ローコード開発ツールを選ぶポイントも徹底解説

DXを加速させるローコード開発とは?メリット、導入するステップを解説

近年、世界中の企業でDX推進の必要性が高まっています。ビジネス環境の変化や多様化する顧客ニーズへの迅速かつ柔軟な対応が求められるなか、ITシステムを構築するにあたっても、どのような開発ツールや開発手法を選択するかがDX推進のポイントの一つといえます。

昨今注目されている開発ツールが「ローコード開発ツール」です。ローコード開発ツールを導入すれば、短期間かつ安定した品質でシステムやアプリケーションを構築でき、企業のDX推進を加速させられるでしょう。

本記事では、ローコード開発のメリットや、ローコード開発ツールを導入するステップについて詳しく解説していきます。ローコード開発ツールを選ぶポイントもまとめましたので、どのツールを導入するか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

1. DX推進の課題

著しく変化するビジネス環境や顧客ニーズに対応するためには、スピード感のある開発を実現できるITシステムが必要です。

しかし、日本国内でこの要件を満たしたITシステムを活用している企業は、まだまだ少ないのが現状です。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」※1 に記載されている「ビジネスニーズに対応するためにITシステムに求められる機能(達成度)」の調査によると、どの項目に対しても「達成している」「まあまあ達成している」の合計は、米国企業での6割から7割に対して、日本企業では2割から4割程度でした。
同白書では、「企業の環境変化への対応や新サービスの短期間での立ち上げ、といったビジネスニーズに対応するためには、企業のITシステムにはスピード・アジリティや社会最適、データ活用を実現する機能が求められる」と言及しています。

また、「ビジネスニーズに対応するためにITシステムに求められる機能(重要度・達成度)」の調査においても、「変化に応じ、迅速かつ安全にITシステムを更新できる」という項目に関して、日米の企業で「重要度」は高いが、日本企業では「達成度」は低いという結果になっています。この項目に関して、同白書では"DXに必要なスピード・アジリティの観点ではとくに改善が求められる。" と言及しています。

図表:ビジネスニーズに対応するためにITシステムに求められる機能(重要度・達成度)

図表:ビジネスニーズに対応するためにITシステムに求められる機能(重要度・達成度)

さらに、経済産業省が発表した「DXレポート」※2ではシステムの保守・運用費が高騰していることで、戦略的なIT投資ができずにDXを進められない企業が多いと説明されています。

これらの課題に対して有効な解決策となるのが「ローコード開発」です。ローコード開発がなぜDX推進につながるのか、次章から詳しく解説していきます。

※1 出典:IPA、「DX白書2023」、図表1-28・図表5-19

※2 出典:経済産業省「DXレポート

2.ローコード開発とは

ローコード開発とは、従来のスクラッチ開発よりも少ないコード記述でシステム・アプリケーション開発を行う手法です。開発に必要なパーツが事前に用意されており、それらをGUIで直感的に組み合わせることによって、システム・アプリケーション開発をスピーディーかつ効率的に行えます。また、必要に応じてコーディング作業を行えます。

ローコード開発のイメージ

ローコード開発のメリット

ローコード開発を採用すると、以下のメリットを得られます。

  • 開発スピードの向上
    開発で必要なパーツが提供されているツールもあり、手間のかかる作業の自動化や簡素化につながります。また、既存システムと連携し、既存のデータや機能を利用することで、開発者はゼロから新しい機能を開発することなく、必要なユーザー認証やデータ管理などを実現でき、開発スピードは飛躍的に向上します。
  • 開発人材不足への対応
    プログラミングの高度な専門知識を持っているエンジニアを雇ったり、育成したりするコストを抑えられ、開発にかかる人件費を大きく削減できます。
    安定した品質でシステムを構築できるローコード開発は、パーツやテンプレートをGUIで組み合わせるシンプルな操作で開発を進められるので、人のスキルに大きく依存せず、安定した品質でシステムの構築が可能です。
  • 業務部門主導で開発作業を進められるようになる
    直感的なGUIによって、非エンジニアもシステム検討に参画できるようになるため、業務ロジック・業務フローを熟知した業務部門主導による、業務部門のニーズにマッチしたサービス開発が期待できます。
  • セキュリティ対策の負担軽減
    システム開発を進める際は、情報セキュリティ対策も並行して行なわなければなりません。ローコード開発には、セキュリティ対策の負担を軽減できるメリットもあります。

一部のローコード開発ツールにはセキュリティ対策が施されているため、自社でセキュリティ対策を講じる手間が低減できます。

ノーコード開発との違い

ローコード開発と混同しやすい用語に「ノーコード開発」があります。ノーコード開発とは、ソースコードの記述を一切せずに開発する手法です。

ノーコード開発は、プログラミングに関するスキルを持った人材がいなくてもシステム開発を進めることができます。ただし、ノーコード開発では一般的に機能が限られており、ローコードよりできることが少ないデメリットがあげられます。

一方、ローコード開発はソースコードの記述が一切不要ではなく、プログラミングスキルを持った開発者が必要となることが多いです。ローコードは、より複雑かつ自社業務に合わせて機能の拡張やカスタマイズを行う場合に適しており、一定のコーディングスキルをもつ開発者が効果的に活用できます。

3. 従来の開発方法との違い

これまでのスクラッチ開発では、ゼロからプログラミングするため、リリースまで数カ月から1年以上かかるケースがほとんどでした。また、プログラミングに関する技術を習得する難易度も高く、時間と労力を要していました。

一方、ローコード開発では、前述したとおりプログラミングはほとんど必要ありません。そのため、従来の開発方法と比べて、開発期間とプログラミングスキルの習得期間を大きく短縮できます。

4. アジャイル開発との親和性

近年ではスピード感のある開発を実現するために「アジャイル開発」を採用するプロジェクトも増えてきています。ローコード開発は、このアジャイル開発との親和性が高いことも特徴です。

アジャイル開発とは、計画や開発、テスト、リリースといったシステム開発を短いサイクルで繰り返す開発手法です。仕様の変更や追加などが頻繁に発生するプロジェクトに適しています。

アジャイル開発の短いサイクルの中でローコード開発ツールを活用すれば、開発をよりスピーディーに進められます。その結果、市場やユーザーに求められているシステムやアプリケーションを、いち早く提供できるでしょう。

5. 国内のローコード・ノーコード開発の市場規模

開発作業において多くのメリットを享受できるローコード開発ですが、実際に日本国内ではどれくらいの企業が導入しているのでしょうか。

IPAの「DX白書2021」※3と「DX白書2023」※4を各々見てみると、2021年度はローコード・ノーコードを活用している企業が15.6%であったのに対し、2023年度には21.6%に増加しています。各ベンダーがそれぞれ特徴のあるローコード・ノーコードプラットフォーム製品を提供しているため、ユーザーが戦略や目的に応じて柔軟に選択できることが導入を後押ししているようです。

また、独立系ITコンサルティング・調査会社の株式会社アイ・ティ・アールのリリース※5によると、ローコード・ノーコードの開発市場は、2026年度は1,300億円を上回り、2021年度の市場規模(612億)の2倍以上になると予測されています。

この調査結果から、今後さらにローコード・ノーコードツールの需要は高まるといえるでしょう。

6.ローコード開発ツールを選ぶ際のポイント

ローコード開発の需要が高まっていることから、国内・国外の多くの企業がローコード開発ツールを提供しています。ローコード開発ツールの種類は非常に豊富で、ツールによって機能も異なります。この章では、ローコード開発ツールを選ぶポイントについて詳しく解説していきます。

自社の目的・要件に適しているツールを選ぶ

ローコード開発ツールは、勤怠管理や案件管理、お客様サポートなど、さまざまな業務のシステム・アプリケーションを構築できます。まずは、自社の目的・要件に対応しているか、業務に対応したパーツが用意されているかを確認しましょう。

提供されているパーツをきちんと確認せずに導入すると、業務に必要なパーツがなくて開発を進められない事態を招くおそれがあります。プロジェクトの成否にも大きく関わる部分であるため、ツールごとの機能を確認し、比較検討を行うことが重要です。

コーディングに関する機能、コーディングに必要な範囲を事前に確認する

ローコード開発ツールは、ツール内のパーツだけで対応できない部分については別途コーディングを行うことになります。コーディング作業の時間は、開発時間に大きく影響します。そのため、コーディングに関する機能とコーディングが必要な範囲を事前に確認しておきましょう。

機能の拡張性、既存システムとの連携性を確認する

ローコード開発ツールでシステムやアプリケーションを開発したあとも、機能の追加や変更などを適宜行うことになります。機能の追加や変更などを繰り返し行うことで、市場やユーザーの要望に適したサービスを提供できます。また、大半の企業では、日常業務で使っているシステムやアプリケーションがすでに存在するため、既存システムとの連携性も重要なポイントです。

ローコード開発ツールを選ぶ際には、機能の拡張性と既存システムとの連携性を踏まえたうえで導入を検討するとよいでしょう。パーツが豊富に用意されているツールであれば、開発後も選択肢が広がります。

画面のデザインについて事前に確認する

デザインはツール側で仕様が決められており、自由にカスタマイズがしにくく、利用できる機能が限られているケースもあります。社外向けのアプリケーションを開発する場合、画面のデザインによってサービスの印象が決まるため注意が必要です。作成するアプリケーションのデザインについても、事前に検討しておきましょう。

セキュリティ対策の内容を確認する

昨今のサイバー攻撃は多様化・巧妙化しており、ローコード開発ツールを利用する際にも適切なセキュリティ対策の下で利用する必要があります。特に、社内の機密情報や顧客情報は適切に保護しなければなりません。ローコード開発に関するセキュリティ対策は、提供事業者に依存するため、選定段階できちんと確認する必要があります。

特にクラウドで提供されているツールは、以下の項目について確認しておきましょう。

  • 障害が発生した際の対応方法
  • アクセス制限やユーザー認証の有無
  • プライバシーマークやISMSなどのセキュリティ認証の有無
  • サーバー・ネットワークの監視・運用の体制

サポートについても把握しておく

システム開発を進めていくうえで、ローコード開発ツールの操作方法に迷ってしまうこともあるでしょう。そのため、どこまでサポートが受けられるかも把握しておくことが重要です。

サポートについては、以下のような項目を確認しておくとよいでしょう。

  • どの段階までサポートしてもらえるのか(ツールの導入・設定までか、運用までサポートしてもらえるのかなど)
  • サポート料金について
  • サポートしてもらえる時間帯について
  • ヘルプやマニュアル、Q&Aなどを用意しているか
  • オンライントレーニングなどを実施しているか

また、操作方法のマニュアルやサポートは、理解しやすいものであることも重要です。トライアルを実施しているツールや、トレーニングやセミナーなどを行っているツールであれば、安心して導入できるでしょう。

7. ローコード開発ツール導入の3ステップ

ローコード開発ツールを業務部門に広げられるようになるためには、ステップを踏んで導入を進める必要があります。具体的には、以下の3ステップで進めていきましょう。

  1. 導入
  2. 定着
  3. 全社展開

それぞれのステップでやるべきことを解説します。

1. 導入

ローコード開発ツールは、はじめは小規模に部門単位で導入を検討することが重要です。ローコード開発ツールを何のために導入するのか、目標・ビジョンを明確にすることから始めていきましょう。また、ツールの導入を進めるうえでは、適切なチーム・メンバーを選出する必要があります。

一部の部門で成功事例をつくり、他部署に展開していくことで、多くの部署・メンバーのサポートを受けながらローコード開発ツールの導入を進められるでしょう。

2. 定着

続いて、ローコード開発のプラクティスの標準化を図ります。従業員がローコード開発ツールを使いこなせるように、ルールや手順を作成しましょう。また、社内のコンプライアンスに準拠しているかを確認したり、保守体制を構築したりするなど、ガバナンスの強化も重要です。

組織全体が適切かつ安全にツールを使えるような体制を構築していきます。

3. 全社展開

最後に、プラクティスの定着化と、全社への展開を図ります。複数のチームが同時にローコード開発を進められるようになれば、企業全体における開発生産性の向上が期待できます。

上記の3ステップを実施する際には、ガイドラインやインフラ、チーム体制なども整備する必要があります。

8. おすすめのローコード開発ツール

この章では、おすすめのローコード開発ツールを2つ厳選してご紹介します。

Mendix

「Mendix」とは、ローコード開発・ノーコード開発どちらにも対応できる開発ツールです。高度な開発を行いたい人はローコード開発を、開発経験がない人であればノーコード開発を利用できます。開発経験がない業務部門が開発に参加することで、新しいアイデアを素早くシステムに反映することができるようになります。

Mendixはドラッグ&ドロップの形で開発を行えるため、構築しているアプリケーションを画面上で確認しながら開発を進められます。チーム全体で可視化したアプリケーションを見ながら開発作業を進めることで、生産性向上につながるでしょう。

また、Mendixのアプリケーションはコンテナ化しているため、オンプレミスやパブリッククラウド、ハイブリットクラウドなど、どの環境・OSであっても自由にデプロイできることもメリットです。

関連情報:Mendix

WebPerformer

「WebPerformer」は、マルチブラウザーに対応したWebアプリケーションを簡単に開発できるローコード開発プラットフォームです。WebPerformerに設計情報を登録し、「アプリケーション生成ボタン」をクリックするだけで、簡単にWebアプリケーションを作成できます。

WebPerformerは既存のサーバー環境をそのまま使え、クライアントパソコンだけで、すぐに開発をはじめることができます。
また、「Webサービス連携機能」を活用すれば、外部のさまざまなサービスと連携が可能です。JavaやJavaScript、ストアド・プロシージャなどを呼び出す拡張機能も搭載しています。ほかにも、定義入力補完機能やAIアシスト機能など、開発をサポートする機能が充実していることも魅力です。

関連情報:ローコード開発 WebPerformer

9. まとめ

ローコード開発の必要性やメリット、ローコード開発ツールの選び方について解説しました。DXを推進させるためには、市場や顧客ニーズにスピーディーかつ柔軟に対応できるITシステムが不可欠です。ローコード開発ツールは、直感的なGUI操作で非エンジニアでも開発作業に参画できます。そのため、業務部門が主導となって現場のニーズに適したサービス開発を進めることも可能です。

また、バグを修正する時間やコスト、専門知識を持つエンジニアを雇うための人件費や教育コストなどの削減につながることもメリットです。

ローコード開発ツールを選ぶ際には、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 自社の目的・要件に適しているツールを選ぶ
  • コーディングに関する機能、コーディングに必要な範囲を事前に確認する
  • 機能の拡張性、既存システムとの連携性を確認する
  • 画面のデザインについて事前に確認する
  • セキュリティ対策の内容を確認する
  • サポートについても把握しておく

ローコード開発ツールを導入することで、組織全体の開発生産性の向上につながり、DX推進を加速できるでしょう。

最終更新日:2023年10月31日