「新型コロナ」で加速する「GIGAスクール構想」とは~ICT教育を推進するにあたってのセキュリティの課題と展望~

「新型コロナ」で加速する「GIGAスクール構想」とは~ICT教育を推進するにあたってのセキュリティの課題と展望~

全国の小中学校に「1人1台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」を整備する「GIGAスクール構想」。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で全国の学校が臨時休校を余儀なくされたことを受け、「1人1台端末」実現時期の前倒しや、緊急時の在宅オンライン学習に備えた通信環境整備などを含む緊急経済対策も成立しました。停滞していた「教育現場におけるICT化」が、「GIGAスクール構想」のもと、今後2から3年で急速に進むことになります。

GIGAスクール構想とは?

文部科学省が2019年12月に発表した「GIGAスクール構想」。その施策の中核となるのは、全国の小学校児童・中学校生徒全員への「1人1台端末」と、ストレスなくインターネット上の情報やクラウドを利用できる「高速大容量の通信ネットワーク」の一体的な整備です。萩生田光一文部科学大臣は、「1人1台端末」を「令和の時代における学校のスタンダード」と述べています。
当初、「1人1台端末」は2023年度までに整備予定でしたが、「新型コロナウイルス感染症」の感染拡大を受けて状況が大きく変化。2020年4月に緊急経済対策が成立し、閣議決定された補正予算案では、「1人1台端末」を整備するための予算がすべて2020年度分に前倒しされました。新型コロナウイルス感染症にとどまらず、臨時休校を伴う事態は、今後も新たな感染症や大規模自然災害の発生時にも起こり得ます。ビジネスにおけるテレワークと同様に、すべての子どもが家庭でも授業を続けられるようにするための通信環境整備にも新たな予算が充てられました。さらに、急速に進められる学校のICTの導入を技術的に支援するため、専門知識を持った「GIGAスクールサポーター」を配置する費用も盛り込まれています。 文部科学省がGIGAスクール構想を推進する背景として、教育現場における全国的なICT整備の遅れと地域間でICT整備の差が広がっています。GIGAスクール構想以前においても、政府は2022年までに「3人に1台」の端末整備を目標に掲げていましたが、文部科学省の「GIGAスクール構想による1人1台端末環境の実現等について」(初等中等教育局 学びの先端技術活用推進室)によると、2019年3月時点でも全国平均は「5.4人に1台」に過ぎず、目標を達成済みの県がある一方で「7人に1台」以下も4県あるなど、子どもたちの学びに大きな差が出ていました。また、無線LANの教室設置率は約4割、100Mbps以上のインターネット接続率も約7割にとどまっています。 GIGAスクール構想はこうした現状を打破するために打ち出された施策です。GIGAスクール構想の「GIGA」は、通信速度などを示す「ギガ」ではなく、「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字。「Global」という言葉が使われている背景には、単なる高速インターネット通信ではなく、日本の国際競争力低下に歯止めをかけたいという文部科学省の思いも感じられます。

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GIGAスクール構想のポイント

GIGAスクール構想の中核となる「1人1台端末」や「高速大容量の通信ネットワーク」が整備された学校では、教育環境が子どもたち一人ひとりに個別最適化されることで創造性を育み、資質や能力をより確実に引き出す効果が期待できます。また、本年度以降順次導入される「新学習指導要領」では、「情報活用能力」が「学習の基盤となる資質・能力」に位置づけられ、「学校のICT環境整備の必要性」と「ICTを活用した学習活動の充実」について明記されました。 「1人1台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」が実現されることで、例えば「一斉学習」において教師がデジタル教材を活用した授業を行えるだけではなく、一人ひとりの反応や考えを把握できるため、よりきめ細かな双方向型の授業を実施できるようになります。また、一人ひとりの学習履歴を確認して、それぞれの理解度や習熟度、教育ニーズに応じて別々の内容を学習させられるようになり「個別学習」の可能性も大きく広がるでしょう。従来のグループ学習では、積極的に意見を発する子どもが一部に限られてしまいがちでしたが、「1人1台端末」なら全員の意見をリアルタイムに共有して多様な意見に触れながら進めていく、新たな形の「協働学習」も可能になります。 児童・生徒たちの学習の形を作り変える一方で、教育委員会や学校にも実務面での改革が必要です。文部科学省は、「令和時代のスタンダードな学校」作りのヒントとなる施策を「GIGAスクール構想の実現パッケージ」として提示。この中には、授業に必要な全機能を備えた「学習者用端末の標準仕様」、高速ネットワークの標準仕様をまとめた「校内LAN整備の標準仕様」、教職員がICT教育を実践する際に役立つノウハウを例示した「教育の情報化に関する手引」などが含まれています。
そして、このパッケージで特に重要な改訂ポイントが、クラウド活用を前提とすることで従来の方針から大きく変更される「セキュリティ」に関する部分です。

GIGAスクール構想を推進するうえでの
セキュリティ課題と今後の展望

これまで教育現場のセキュリティ設計は、2017年に策定された「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を基本としてきましたが、ガイドラインに縛られた整備の硬直化が問題になっていました。そこで、GIGAスクール構想に合わせて、政府全体で推進している「クラウド・バイ・デフォルト」の原則を教育現場にも適用。合わせて、従来のガイドラインでは遵守すべき「対策基準」だった項目を「参考資料」とし、急速に広がっているクラウドサービスの活用についても対応できるようにしました。これにより現場ではパブリッククラウドを活用した柔軟かつ低コストでの環境整備を検討できるようになった反面、画一的な基準ではなく使用環境に応じた適切なセキュリティポリシーの確立が求められるようになります。
例えば「1人1台端末」になると動画コンテンツなどで授業の幅が広がる一方、通信の集中によるボトルネックが懸念されます。教育委員会のサーバーを介さず学校から直接ネット接続すればボトルネックは避けられますが、外部からの攻撃に対するセキュリティ対策は学校ごとにセキュリティ上の課題を把握し、適切なICT運用を行うための責任体制の構築やルールの明確化、ITリテラシー教育などを実施する必要があります。 GIGAスクール構想は、教室内のみならず、校務や子どもの家庭にも係るプロジェクトです。多くの学校には、教員の働き方改革と教育の質の向上を実現する「統合型校務支援システム」が導入されていますが、ベテランを中心にICTに消極的な教員も少なくありません。しかし「GIGAスクール構想」では例外なくICTの利用が求められ、ITリテラシーが低い教員にもセキュリティ上のリスクを周知させなければいけません。また、クラウド・バイ・デフォルトによりクラウドの活用が増えると、従来と比べて校務支援システムと学習系のシステムの境界が曖昧になることも考えられ、双方のデータ連携とセキュリティの切り分けが重要になります。さらに、新型コロナウイルス感染症対策も兼ねた教職員のテレワークが、クラウドやBYOD(Bring Your Own Device)の活用でさらに導入しやすくなることもリスク要因となり、マルウェア対策、情報漏洩対策、シャドーIT対策などがより重要になります。そのためのソリューションとして、日立ソリューションズでは、テレワーク実施時のエンドポイントセキュリティ対策である、既知・未知問わずマルウェアを高精度に検知する次世代マルウェア対策製品「CylancePROTECT®」、私物デバイスへのファイルの不正コピー防止や端末・データの暗号化による盗難・紛失時のセキュリティ対策が可能な情報漏洩防止ソリューション「秘文」などの製品を用意しています。 児童生徒の保護者についても考える必要があります。GIGAスクール構想では、学校端末の持ち帰りについて、情報セキュリティや有害コンテンツのアクセス制限などに考慮したうえで、自治体や学校の判断で認めているほか、Wi-Fi環境が整っていない家庭へのモバイルルーターの貸与も予算化されています。経済的な理由から自宅でインターネットを使えてこなかった子どもが、自宅で平等な学びの機会を得られるようになるのは朗報ですが、ITリテラシーの低い保護者が、セキュリティやフィルタリングを自分よりも詳しい子ども任せにして、使い方も監督しないようなケースも考えられます。ビジネスのテレワークと大きく違うのは、利用者が15歳以下の子どもであることです。小学一年生でも自分でアプリをインストールできる世代だからこそ、保護者を含めた情報モラル教育とともに、クラウド上のオンライン学習コンテンツ利用、グループウェア、ファイル共有などクラウド活用を前提としたセキュリティ対策が重要になります。それを可能にするソリューションとして、日立ソリューションズでは、セキュアなクラウドサービスの利用を実現する次世代CASB「Forcepoint ONE(旧名称:Bitglass)」を用意しています。
「1人1台端末」が本格稼働すると懸念されるのは帯域不足です。ネットワーク機器は一度導入すると長期間利用されることを考慮すれば、より高速な機器を導入するという考えもあります。日立ソリューションズは、校内LANをセキュアで高速なネットワークとして構築するUTMアプライアンス 「Fortinet FortiGate」 シリーズや最新規格のWi-Fi6(IEEE802.11ax)にも対応するセキュア無線LANシステム「Aruba」シリーズなど、さまざまな業種で数多くの実績を持っています。

まとめ

スイスのIMDビジネススクールが発表する「世界競争力ランキング」2020年版で、日本は全63の国・地域の中で34位と、前年の30位からさらに順位を下げました。これはビジネス効率やデジタル技術の低さが大きく影響していることが要因です。平成期からの低下傾向から脱却できない国際競争力の回復にも、教育現場のデジタル利活用度を大きく向上させる「GIGAスクール構想」が重要な役割を担うことが期待されるでしょう。

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