スマートマニファクチャリングソリューション

IoTプロジェクトの実践、つながる工場をめざすユースケースより

連載『“失敗しない、止まらない”IoTプロジェクトの処方箋』#04

めざすべきゴール、目先の成功より困難なチェレンジ

 IVIのワーキンググループで、筆者がテーマとして選んだのはMES(製造実行システム)です。製造現場のあらゆる情報(データ)をデジタル化して集め、これをサービス化して活用する仕組みを生み出すのがゴールです。企業間、工場間、工程間をつなぐデータを収集して見える化し、このデータを利用して省力化とコストダウンするのに役立てます。

まず取り組んだのは、工場間で連携してものづくりをするときに進捗や原材料/仕掛品の在庫の状況が共有できないことでした。生産作業が遅れたり仕損じて原材料の在庫が足りなくなったりすると、これまではその都度メールやFAX、電話などで問い合わせする必要がありました。工場ごとにシステムや情報のレベルが異なるため、これを相手の手間をかけずにいつでも共有する手段がありませんでした。初年度は市販のMESを各工場に入れて、データを共有すればできると考えたのですが、ことはそれほど簡単ではありませんでした。まず、現場のデータをデジタル(数値や値)で入手する仕組みや手段がありませんでした。従来MESの導入は、工場ごとに数千万円以上で1年間以上かかります。日本のものづくりを支える中堅中小企業のためには、別の手段で早く安く実現するやり方を見つけなければなりません。こうした課題の解決から取り組むことにしました。

データの取得にはタブレットが使えました。従来MESの代わりBIツールをベースに簡易MESを開発しました。監視ツールにはペッパー(Pepper、ヒューマノイド型ロボット)を移動カメラとして使ってみました。こうしてさまざまな工場内データを、工場のイントラネット内サーバーに取集しました。共有すべきデータのみクラウドのIoTプラットフォームへ上げて、工場間や取引先との情報共有はクラウド上で行う2階層の仕組みとしました。例えば、生産進捗は宅配便の配送情報と同じように組付工程や検査工程が終わると表示されます。在庫情報は、利用可能在庫だけクラウド上で共有して、検品前や仕損品などは見せません。誰に何をどのように見せるべきかを考えるのが、ワーキンググループメンバーでは最も議論が盛り上がったところです。工場内の製造実績データを管理するMESではなく、「つながる工場」を前提とした「つながるMES」の実現をめざしています。

 製造現場のIoTに取り組んで痛感したのは、苦労して入手したデータを誰でもひと目見てわかるように見せるのは、大変難しいということでした。欲しい情報は人それぞれなので、数値で欲しい場合もあれば、グラフや言葉(音声)/画像(イメージ)で欲しい場合もあります。同じ作業をする現場担当者でも、熟練度が高い「匠」と熟練度が低い担当者では違います。工場間で「どのデータをどれくらいのレベル見るのか、どこまで相手に見せるのか」というモノサシがありません。データを活用して貰うためには誰にでもひと目見てわかる効果の上手い見せ方も重要です。定性的なデータだけでも、定量的なデータだけでもカイゼンや効率化には使えません。複数のデータをバランス良く上手く使い分ける必要があります。伝えたい人に情報を見て貰うためには、情報に興味を持ってもらわなければなりません。

何度も繰り返して議論したのは、『見せ方を工夫すること』でした。前述したタブレットは、データ収集にも可視化にも最も有効なツールでした。ペッパーは、カメラとタブレットを搭載して動くことができる道具だったので遠隔操作できるようにアプリケーションを作ってみたりしました。音声認識には人工知能AI(IBM Watson)を使い、出力結果をペッパーに喋らせてみたりしました。やってみると、現場担当者から「手入力より口頭の方が楽だ」という意見を得ることができました。

 本ワーキングの成果報告発表にも工夫を凝らしました。新しい技術に関心持って貰うために、活動報告についてのすべてをペッパー自らがプレゼンすると言うようなイベント向けのパフォーマンスを行ないました。(以下の参考動画参照)よいことだけを報告するのではなく、ダメなところや失敗したところも隠さず事実を報告して後に続く人達へ託すというやり方をしています。

 IVIで三年間取り組んで、データを取得するところと、収集したデータを蓄積して工場間で共有できるところまでようやく目処がついたところです。これからは、蓄積したデータをサービスとして活用する領域へフォーカスしていく予定です。筆者の取り組みは、3つのステップの1つ目がようやく見えてきたところでめざすゴールのまだ3合目と言ったところです。ご紹介したIoTプロジェクトは、工場における製造現場の取り組みなので社内向け(SoR:システム・オブ・レコード)ですが、お客さまへ販売する製品の稼働データやアフターサービスとしてIoTを活用するサービスを提供すれば社外向け(SoE:システム・オブ・エンゲージメント)となります。この領域へ進むにはまだ時間はかかると思いますが、こうした取り組みを続けていくことでIoTの技術を上手く活用してビジネスに生かすことができると考えています。


【参考資料】

・企業を越えて連携する自律型MES
 https://iv-i.org/docs/doc_160310_s3_5_108-2.pdf

・工程情報の共有と企業間連携
 http://iv-i.org/wp/wp-content/uploads/2017/04/BSWG7_2G01.pdf

・拡張MESによる生産カイゼン
 https://iv-i.org/wp/wp-content/uploads/2018/04/3E01_20180309.pdf

【参考動画】

・企業を越えて連携する自律型MES
 https://www.youtube.com/watch?v=K3FCEgvDN7o

・拡張MESによる生産カイゼン
 https://www.youtube.com/watch?v=4HG5NAr5VW4

・企業を越えて連携する自律型MES
 https://www.youtube.com/watch?v=m6fWvFFZV5I

・トラブル発生時の対処にAIを活用
 https://www.youtube.com/watch?v=-GQvFhs_n-M

・パレット積み作業支援
 https://www.youtube.com/watch?v=r0vvb19gTsM

まとめ

 いろいろなIoTプロジェクトを経験して感じることは、いつも苦労するのはデータを取得して「見える化」するところです。取得したデータを使って、誰に何を見せればサプライズと感動を与えられるのかを考えるのは一番楽しい作業です。世の中の多くのIoTプロジェクトは、集めたデータを「見える化」するPoCまでの取り組みが多く、ユーザーが求める価値あるサービスを提供してビジネスに貢献するまでには暫く時間が必要だと思われます。

これまでのPoCは、1つの機能の効果を確認するものが大半ですが、今後はその成果を複数組み合わせてこれまでには無い新しいサービスや価値を提供することになるでしょう。また、製品とサービスが互いに補完し合って競争力を高めるケースが増えてくると予想されます。

PoCは、課題を1つずつ解決する方法として有効な手段です。しかし、1つのPoCでいきなりゴールに到達できるわけではありませんから、課題の数だけPoCを行ってその結果を組み合わせる発想が必要です。

読者の皆様もPoCに慣れてきたと思いますので、次のPoCの使い方/組み合わせ方へ進む人が増えていくと思います。乗り越えられない壁ではないので、途中であきらめなければ失敗はしません。1ミリでも前に進み続ければ、必ず壁を越えてゴールに至ることができます。日本の強みは、あきらめずに粘り強くやり抜く力にあると信じています。

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