コラム
組織の生産性の向上 第5回
ワークスタイル変革が実現するものとは?
ワークスタイル変革が求められる背景
ワークスタイル変革(働き方改革)とは、社員一人ひとりの柔軟な働き方を実現することで、社員がいきいきと活躍できる環境をつくるとともに、その活躍を会社の成長にも役立てようという考え方です。 2018年6月の国会で、働き方改革関連法が成立しました。約70年ぶりとなる労働法制の大幅な改正で、国レベルにおいてもワークスタイル変革を成長戦略の重要施策と考えていることがわかります。今後は各企業もさまざまな対応が必要になっていくでしょう。 まずは、ワークスタイル変革が求められるようになった背景をおさらいしておきましょう。現在、日本では少子高齢化による労働人口(生産年齢人口)の減少が深刻な問題となっています。加えて、長時間労働の是正(残業の削減)と総労働時間の短縮という、日本社会の特徴とされる課題の解決も大きなテーマです。 また、インターネットが普及した現在、グローバル化が進展する一方で、人々の価値観やニーズも多様になってきました。「会社で働く」という価値観も大きく変わり、従来のように「会社のためにプライベートを犠牲にして働く」「残業するのは当たり前」といった考え方は、もはや通用しなくなっているといっていいでしょう。 仕事とプライベートを両立させる「ワークライフバランス」や、女性・外国人・障がい者など多彩なバックグラウンドを持った人材が個性を活かしながら働く「ダイバーシティ」の考え方も広がり始めています。
ワークスタイル変革の意義
企業は、事業の継続や将来的な成長を見据え、生産性を向上させ、新たな価値を創出していかなければなりません。 ところが日本のホワイトカラーは、以前から生産性の低さが指摘されてきました。一日に何時間も残業し、休日出勤もするなど長い時間会社にいるものの、効率は一向に上がらず、時間あたりの成果も上がりません。生産性が低いまま残業をしても、会社にとってはかえって人件費や設備費などコストが増え、社員としても心身ともに負担が増えるだけで、目に見える成果にはつながらないのです。 労働人口が減る中で、社員の労働時間を減らしつつ、企業としてはビジネスの成果を上げなければならない……この矛盾した命題を解決するには、必然的に社員一人ひとりの生産性を向上させなければなりません。 だからこそ、ワークスタイルを見直し、社員が働きやすく能力を発揮できる環境を整備することに意義があるのです。社員一人ひとりの能力を最大限活かす環境を整備するとともに、テクノロジーの導入によって時間あたりの個人の生産性を上げていけば、結果的に会社の生産性も上がり、成長につながっていくという考え方です。 そもそも、労働人口が減り、企業はただでさえ自社とマッチする優秀な人材を集めることが困難になっています。高度経済成長時代の「とにかく長時間働く」という企業文化を保ち続けていると、社員が疲弊して離職につながったり、価値観が多様化する中で人材集めがさらに困難になる可能性も高いでしょう。会社にとって効果的な人材活用を行うためにも、ワークスタイル変革は必須だといわれています。
具体的な取り組みとは
前述のように、ワークスタイル変革の一つの方法として、社員が能力を最大限発揮できる組織づくりが挙げられます。人の能力を活かす組織づくりとは具体的にどのようなものなのでしょうか。 生産性向上という話が出ると、いつも真っ先に出てくる言葉が「業務効率化」です。もちろん、業務を効率化して無駄をなくすことは、企業にとってもコスト削減につながる大きなメリットがあります。 しかしながら、やみくもにコストを削減するという視点だけでは、ワークスタイル変革には結びつきません。 ワークスタイル変革でめざすものは、単純な業務効率化ではなく、あくまで「柔軟な働き方を実現したうえで生産性を向上させる」ための業務効率化です。ですから、業務の無駄をなくすことで、社員がクリエイティブな仕事に充てる時間を多く確保できるようにするという視点が必要になります。 「人」に着眼し、その人が持っている能力や個性を、企業が求める仕事のために発揮させる施策こそが、ワークスタイル変革であるといえます。 ワークスタイル変革に向けて行う施策は、大きく分けると制度面と業務面に分けられます。 前者は「柔軟な働き方の実現」につながるもので、働く時間・場所、働きやすい環境整備などが挙げられます。 たとえば
- 働く時間を自由にする(勤務時間を柔軟に決められる)
- 働く場所を自由にする(テレワークの推進)
- ノー残業デーの実施など残業削減の取り組みを制度化する
- 出産・育児や介護向けの休業・時短制度を充実させる
- 時間単位ではなく成果によって評価を行う仕組みをつくる
などです。一方の業務面は、機械的・定型的な業務を自動化するなど、社員を生産性の低い仕事から解放する施策が考えられます。たとえば
- データ入力や経費精算、書類作成といった業務をRPA(Robotic Process Automation、ロボットを使った業務自動化)に任せる
- マーケティングのデータ分析など人力で行っていた作業をAI(人工知能)に任せる
- クラウドや業務アプリケーションを整備し、テレワークができるシステムをつくる
- 事前の資料共有や議論の見える化によって会議を効率化したうえ、どこからでも会議に参加できるようにする
- アウトソーシング可能な業務は外部に委託する
などの施策があります。
まとめ
ワークスタイル変革がめざすのは、社員個人の「働きがい」「働きやすさ」「ワークライフバランス」の実現を通じて、企業全体の「生産性向上」と「価値創出」を実現することです。 繰り返しになりますが、単なるコスト削減のための効率化ではなく、社員一人ひとりの能力を最大限発揮させ、企業の成長につなげるという視点を持つことが大切です。
連載目次
- 第30回 【おすすめ一挙紹介】オンラインでアイスブレイクを行うメリットや注意点を解説
- 第29回 テレワークが中小企業で進まない理由とは?リスクや対策を徹底解説
- 第28回 テレワークで雑談をする重要性は?注意点や気軽に雑談する方法を紹介
- 第27回 テレワークでの勤怠管理の難しさとは?課題の解決方法や管理のポイントを紹介
- 第26回 オンラインプレゼンは難しい?伝わるプレゼンのコツを徹底解説
- 第25回 リモートアクセスとは一体なに?仕組みや種類、特徴をわかりやすく解説
- 第24回 オンライン展示会・バーチャル展示会のメリット・デメリットを徹底解説!目的別の選び方も紹介
- 第23回 オンラインイベントって?開催の流れや成功のポイントを解説
- 第22回 労働生産性の定義とは?計算方法や向上させる方法まで解説
- 第21回 生産性って?種類から算出方法まで解説!
- 第20回 在宅勤務とテレワークの違いとは?導入のメリットやポイントをご紹介
- 第19回 ワークライフバランスを正しく理解する
- 第18回 女性活躍推進に取り組む企業に求められる対応
- 第17回 モバイルワークとは?在宅勤務との違いや導入のポイントを解説
- 第16回 テレワークで始める働き方改革!メリットやポイント・留意点を解説
- 第15回 働き方改革による残業の変化はどうなる?企業・従業員視点から解説
- 第14回 働き方改革関連法とは?内容や変化ポイントを解説
- 第13回 リモートワークとは?テレワークとの違いやメリット・デメリットを解説
- 第12回 テレワークで生産性は下がるのか?正しく対処して生産性を上げる方法
- 第11回 働き方改革とは?目的や実現に向けての取り組み方法やメリット・問題点も解説
- 第10回 改善されない長時間労働の常態化……業務ルールを徹底するには?
- 第9回 タレントマネジメントで成果を上げるチームづくり
- 第8回 会議のスタイルを見直して活発な議論を促進
- 第7回 AIによる業務サポートが生産性の向上をもたらす
- 第6回 事務作業を自動化!RPAが変える仕事のスタイル
- 第5回 ワークスタイル変革が実現するものとは?
- 第4回 テレワークの課題を解決する「就業管理方法」とは?
- 第3回 テレワークに有効な「コミュニケーション基盤の活用」と「スマートデバイスのセキュリティ管理」
- 第2回 テレワーク環境の整備に使いたい「仮想デスクトップ」
- 第1回 企業と従業員、2つの視点で見る「テレワーク導入のメリット」