Sustainability Dialogue

トップエンジニアを育む力 ― 環境が支える挑戦と進化 ―

アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)の「2025 AWS Ambassadors」と「2025 Japan AWS Top Engineers (Service)」に選出された三好秀徳と、日本マイクロソフト株式会社の「Microsoft Top Partner Engineer Award」を3年連続で受賞した松野貴史。二人のトップエンジニアが、これまでどのように技術を磨き、キャリアを築き、次世代のエンジニア育成へと向き合っているのでしょうか。現場で得た経験や成長環境、そしてAI時代に変わらず求められるエンジニアの価値について語り合いました。

トップエンジニアの三好秀徳と松野貴史
三好秀徳

業務革新統括本部
技術革新本部 生産技術部
ITアーキテクト

三好 秀徳

松野貴史

産業イノベーション事業部
グローバルアプリケーション本部 第2部
ITアーキテクト

松野 貴史

トップエンジニアとしてのキャリアについて語る三好秀徳と松野貴史

現場で感じた「限界」こそが、 キャリアの転機になった

まずはおふたりがエンジニアの道を志したきっかけからお話を伺えればと思います。

三好:一番のきっかけは、高校生の頃に『闘うプログラマー』という本に出会ったことでした。この本の登場人物の一人であるデヴィッド・カトラー氏は、Microsoft Windows NTの開発を率いた伝説的なエンジニアです。本を読んだ10代の私は、エンジニアという仕事をカッコいいと感じました。その後、大学で数学を研究しましたが、周囲には本当に優秀な人が多く、自分は研究者として進むよりも、エンジニアとして仕事をしていく方が向いていると感じ、この道に進みました。

松野:私は三好さんのように、最初からエンジニアをめざしていたわけではありません。ただ、子どもの頃から「ものをつくること」には興味がありました。たとえば、ゲームをしていると最後にエンドロールが流れて、開発者の名前がずらりと並びますよね。ああいう仕事に、憧れがあったんです。就職活動をしていた当時はちょうど、インターネットが世の中を大きく変えはじめた時期でその最前線に携わりたいという気持ちもあったのだと思います。

入社後はどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか?

三好:最初に担当したのは、金融系のシステム構築、保守です。お金の流れを支えるシステムだけに、間違いは許されず、毎日がプレッシャーの連続でした。けれど、そこでエンジニアとしての基礎を叩き込んでもらえたのは幸運だったと思います。お客さまと徹底的に議論し、最後まで逃げずにやり抜く。日立グループに息づくそんなカルチャーは、いまでも私の血肉となっています。

一方で、経験を重ねるなかで、一人の技術者としてできることには限界があるとも感じるようになりました。組織として良いものをつくり続けていくためには、技術や知見を個人や一部署に閉じるのではなく、組織全体、さらには業界全体で共有していくことが重要です。自分一人が成長するだけでなく、多くのエンジニアの成長に貢献したい。そんな思いから、現場のエンジニアを支援するポジションへとキャリアチェンジすることを決意しました。現在は主にAWSを中心としたクラウド領域に関して、社内からの技術的な問い合わせに対応したり、クラウドベンダーと共同で勉強会を企画したり、開催したりしています。

松野:三好さんが仰っていた「限界」という言葉に、心から共感します。私は入社後、システムの受託開発などに携わっていたのですが、やはり一時期からある種の「限界」を感じるようになりました。スクラッチでイチからシステムを構築するためには、優れたエンジニアが何人も必要になります。しかし、IT業界の人財不足が進むなかで、それだけの人的リソースを確保し続けることは、決して簡単ではありません。

そんなときに出会ったのが、ローコードやノーコード開発の世界です。ある程度の知識さえあれば、誰でもシステムがつくれてしまう。そこに大きな可能性を感じ、マイクロソフト社のローコード開発プラットフォーム「Microsoft Power Platform」を取り扱うようになり、現在は案件のプリセールスからお客さまへの技術コンサルティングまでを幅広く手がけています。

たしかな成長環境を土台に、 時代の要請に応えるトップエンジニアへ

おふたりはそれぞれ、大きなアワードの受賞経験者です。ご自身としては、評価のポイントはどこだったと感じていますか?

三好:社内での継続的な技術支援を通じて、当社のAWSにおけるサービス向上に継続して貢献していることや、幅広いカンファレンスでの情報発信などを評価していただいたのだと思います。AWSには200以上のサービスが含まれています。当社では、お客さまの抱える課題を解決するために、AWSのさまざまなサービスを幅広く利用しています。そうすると必然的に、私のもとにもAWSに関連した多種多様な相談が寄せられることになります。そうした目の前の課題や相談の一つひとつに真摯に向き合う中で、培った知見を積み重ねてきたことが、アワードの選出につながったと考えています。

松野:私の場合は、Microsoft Power Platformの利用が世の中で拡大していくなかで、タイミングよく新たなサービスを立ち上げられたことが大きかったのだと感じています。Microsoft Power Platformでアプリケーション開発を内製化しようと考える企業は増えていますが、それでも専門家の支援が必要になる場面は多々あります。

そこで私たちが立ち上げたのが、Microsoft Power Platformの導入支援サービスです。その後も生成AIアシスタント「Microsoft Copilot」を活用したエージェント開発をサポートする導入支援サービスを立ち上げるなど、Microsoft Power Platformを使いこなせる企業の拡大に貢献できたことが連続受賞につながったと受け止めています。

そうしたおふたりのエンジニアとしての成長を支えたものは何だったのでしょうか?

三好:まずは当社に、人的資本への投資を惜しまない企業風土と充実した教育研修の制度があることだと思います。たとえば、私は、プロジェクト配属後の間もない頃に、日立グループの人財育成を担う日立アカデミー社で5日間の研修を受けたことがありました。エンジニアが5日も現場を離れることによるチームへの負担は決して少なくないはずですが、それでも長期的な視点でエンジニアの成長を後押ししてくれる。そうした企業風土はいまでも変わりません。あとはやはり、手厚い資格報奨金があることもモチベーションにつながりますね。

松野:同感です。最近では、従業員個人が主体的に学べる「学習体験プラットフォーム」が導入されたことで、学びやすい環境がさらに整ってきたと感じています。私が新人の頃は、勉強のために自前で開発プラットフォームを契約して、気がついたらとんでもない課金額になっていた、なんていうこともありましたから。エンジニアの学習環境は、かつてよりもはるかに整備されていると感じています。

自分自身の成長という観点でいえば、受賞後のことにはなりますが、アワード受賞者を対象としたネットワーキング活動に参加できるようになったことも大きいと感じています。業界の最前線で活躍するエンジニアが、いまどこに注目しているのかを肌身で感じられる貴重な機会です。

AI時代に求められるエンジニア像について語る三好秀徳

AI時代、「責任」と「言葉」こそが、 エンジニアに求められるものになる

AIが急速に進化するなか、これからトップエンジニアをめざす若手には、どのようなスキルや姿勢が求められると感じていますか?

三好:大切なのは、小さな成功体験と小さな失敗を積み重ねていくことだと考えています。誤解を恐れずにいえば、エラーが出ることを恐れないでほしい。失敗やエラーを経験することなしに、エンジニアの成長はあり得ません。

そのうえで、AIの台頭によって「コードを書くこと」の価値が、相対的に低下していくことは間違いないでしょう。コーディングのスピードだけを比べたら、人はもうAIには絶対に勝てない。けれど、私がかつて担当していた金融系のシステムのように、世の中には高度な厳密さが求められるシステムが存在します。そうした案件では、たとえコーディングにAIを使ったとしても、最終的な説明責任は人が果たさなければなりません。AIと共存しながら、持続可能な社会の基盤となるシステムを確実に下支えしていくことが、当社のトップエンジニアの役割なのではないでしょうか。技術そのものだけではなく、その技術を安心して利用できる形で社会へ届ける責任が、これまで以上に求められていると感じています。

松野:三好さんも仰るように、これから問われるのは「AIをどう使いこなしていくのか」ということだと思います。そこで欠かせないのが、実は日本語力だというのが私の持論です。AIに的確な指示を出せるのか。AIの回答に含まれるハルシネーションを見抜けるのか。そして、お客さまのニーズを適切に汲み取り、潜在的な課題を言語化できるのか。これからのトップエンジニアに求められるのは、そういったスキルなのではないでしょうか。

そのためにも、まずは若手の皆さんには、日々作成するドキュメントやプレゼンテーションの文章の質を、もう少しだけ見直してみてほしい。お客さまの課題を正しく理解し、その解決を通じて社会に価値を届けること。お客さまの事業への貢献も、社会全体のSXの実現も、そうした小さな一歩の積み重ねの先にしかないはずです。

対談を終えた三好秀徳と松野貴史